特別編 エビフライの想い出
中年男性が仕事の合間に、食事を取るだけのテレビドラマを見ていた時、エビフライが登場した。
私はドラマも好きで有るが、エビフライはもっと好きで有る。
車海老のエビフライとかで無く、ブラックタイガー等の庶民的なエビフライの方が好きだ。
エビフライは洋食店に行けば、まず有るメニューだし、ファミレスにもエビフライが食べられるメニューが記載されている店舗も多いだろう。
フライ物には関しては当然だが、揚げたてが一番美味しい。
口内をやけどしやすいが、揚げたてのエビフライは衣の歯触りがとても良くて、エビのプリプリ感が存分に楽しめるし、甘みを強く感じる。
しかし、お値段の方は決して安くないので、お店でエビフライを注文する機会は滅多に無い。
スーパーの惣菜コーナーでもエビフライを売っている店も多いが、家で温め直してもあまり美味しくは感じない……
いっそ揚げ直せば別だが、惣菜品を改めて揚げ直して食べる気分にも成らない。
自炊でエビフライを調理する手も有るが、パン粉等のフライを作る前準備、油の後処理、お店やスーパーの惣菜とは又違ったエビフライ(丸く成ってしまったエビフライ、揚げすぎ…)が出来てしまう事を考えると、中々作る気は起きない……
そうなるとエビフライは、洋食店やファミレス等で食べるのが、一番良い話なるかも知れない。
私のエビフライ思い出話は色々有るが、一番印象に残っている思い出を書き記したいと想う……
☆
私は、とある地方の所用で、電車を利用して
大体、電車で1時間半ぐらいの距離だった。
思っていたよりも用事が早く済んだので、近くで昼食を取ろうと考えたが、近辺に飲食店は全く無かった……
仕方なく駅に向かい、駅周辺の飲食店を探したが、まだお昼の時間には早くて、お店が開いていなかった事と、ラーメン等の麺類のお店は開店していたが、お昼にそれを食べたいとは感じなかった。
駅周辺は諦めて、駅の建物に入るが、そこは比較的大きい都市の駅だったため、数件だが飲食店も駅の建物内に入っていた。
駅のコンコースを歩いて品定めするが、気になったのは喫茶店、ハンバーガーショップ位しか無かった。
初めて来た土地だったため、地理状況が上手に把握出来ておらず、諦めてハンバーガーショップで昼食を取ろうと考えたが……
お昼前だったが、学校の期末試験等の授業が短い日に重なったのだろう。
ハンバーガーショップのレジには学生達の行列が出来ており、店舗内の座席も学生達の姿が目立った。
店内での食事は止めて、持ち帰りでの注文も考えたが、普通の電車内ではマナー上、食事は取りにくいし、駅のベンチで食べても良いが、春が間近の冬だったとは言え、そこまでして食べたいとは思わなくなっていた……
駅建物内での昼食は諦めて、どうしようかと思った時、駅の建物の横に商業施設が有るのに気付いた。
〇〇デパートと書いて有るが、建物はとても古く、高度成長期時代に作られたのでは無いかと思うほどボロボロの建物だった。
『腹が減った……』と言うドラマの主人公では無いが、私はこの地での食事を求めていた!!
ボロボロの建物に私は入り、〇〇デパート店内の様子をうかがう。
1階部分は衣料品コーナーにでも成っているのか、衣料品が売られていた。
デパート何だからレストラン位は有るだろうと、デパートの案内板を見ると、4階に洋食店と喫茶店が有るみたいだ。
ほぼゴーストタウン化していたデパートだが、私は望みを掛けて、エレベーターに乗り込んだ。
デパートは4階建てで、4階に飲食コーナーが有るから4階のボタンを押す。
年季の入ったエレベーターは、ゆっくり1階から4階に上がって扉が開く……。扉が開いた瞬間、私は絶句してしまう!?
無残な空間が広がっていた……。テナントが『撤退しました』の状態が嫌でも分かる。私は思わず『こりゃ、だめだ…』と呟いてしまった。
しかし、目の前の光景よりもお店を探す。私は4階のフロア全体を見渡した。
すると、洋食店と喫茶店をフロアの端の方で見つけ、……どうやら営業している見たいだ。どうせなら洋食店で食べようと思い洋食店に向かう。
洋食店の入口には手書きのメニューが掲示されており、定番のハンバーグやエビフライ、クリームコロッケ等が書かれており、それに目が止まる。
クリームコロッケが一番安価で、クリームコロッケに決めようと考えたが、どちらかと言えば、ハンバーグやエビフライが食べたいと感じていた。
どちらにしようと悩みつつ、私は店内を軽く覗いてみる。
店内は、少しお昼前の事を含めてお客さんは居なかったが、こんな
料金の方もお手軽の分類では無く、中流向け? の料金設定だったので、少々予算オーバーでも有った。
店の雰囲気と予算の関係で『諦めるかと…』と思い、店を後にしようとした時、奥から出てきたスタッフと目が合ってしまう。
スタッフの人は『いらっしゃいませ、こちらにどうぞ!』と言ってくる。
諦めるつもりだったが、私は店に入る事を決め店に入る……
“昭和の香り”を思い出させる店内で有って、その時代にタイムスリップをした状態に近かった……
スタッフから『お好きな席にどうぞ』と言われたので、窓際の席に座る。
4階から見る窓景色だが『高層ビルでの食事見たいだ!』と心の中ではしゃぐ。
注文は悩んだが、エビフライをライス・スープ付きで注文する。
注文した品を待っている間、窓からの景色を眺めるが、直ぐに飽きて店内を観察する……
洋食店のスタッフは2人で、夫婦で切り盛りしている感じだ。
男性が調理で、女性はウェイトレス。
2人の年齢の方も大分重ねており、利益を追求する経営よりも趣味でやっている雰囲気がした……
カウンター席とテーブル席が有って、カウンターの向こう側は厨房に成っている。
2人の会話が丸聞こえなので、料理の進行状況が分かりやすい。
冷蔵庫の開閉音が何回かして、それが止んでしばらくすると『ジュ~、パチ、パチ、―――』と揚げ物の音が聞こえ出してくる!!
カウンター上に有る料理の提供口には、お皿に盛られたライスが置かれて有った。
『もうすぐだな…』とエビフライが出てくるのを楽しみにしていると、遠くから人の声が聞こえて来て、お客さんがやってくる。
『あっ…、やっぱり、常連さんは居るのだな。出なければ……だもんな!』そんな事を思いつつ料理を待つ。
さっき入ってきたお客さんは、クリームコロッケを注文していた。
注文してから、10分位を過ぎた所でエビフライ、ライス・スープが私の元へ運ばれて来る。
エビフライが乗っている皿の
私にとっては、久し振りすぎる位のエビフライだった!
スープは味噌汁で、まずはスープを飲む…。うん、普通の味噌汁だ! 安心する味で有る。
スープを飲んだ後はいよいよエビフライで有る。洋食店だけ有って、割り箸とかの箸では無く、ナイフとフォークを使って食事をする。
ナイフで一口大に切ったエビフライに、タルタルソースを付けて頬張る!
衣のサクサク感とエビの旨み甘み、タルタルソースで三位一体だ!!
まずまず大きいエビフライだが、2本しかお皿には乗っていない。
エビフライの配分を間違えると、最後の方はご飯とスープだけに成ってしまう。大事に食べなければ……
惜し惜しでは無いが、ゆっくりと昼食を楽しんでいると、意外にもお客さんはドンドン入ってくる。大きい店内では無いから、直ぐに席が埋まりそうな勢いだ。
もっとゆっくりと食事を楽しみたいが、お昼の時間帯に入り掛けており、私1人でテーブル席を占有しているのも気が引けるので、食べるスピードをアップさせる。
聞く気は無いが…、お客さんの注文する品を聞いていると、殆どの人がクリームコロッケを注文している。
たまにハンバーグや他のメニュー注文をする人は居るが、エビフライを注文する人は居ない。それもそうだ。メニューの中ではエビフライが一番高価だから……
(もしかして、ここはクリームコロッケが有名なのか!?)
(しまったな~~。クリームコロッケを食べれば良かった!!)
(値段もそっちの方が安価だし…)
私はそんな事を考えながら、エビフライとライス・スープを完食する。
エビフライの
あまり長居していても迷惑だろうなと思って席を立とうした時、私の後ろに座って居た人が注文するためにスタッフを呼ぶ。
その人の注文が済んだら店を出ようと決め、席を立つのを止めた。
案の定その人も『クリームコロッケ下さい♪』と軽やかな声で注文したから、私は『やっぱり、クリームコロッケを食べれば良かった~~』と後悔したのだった……
☆
そのお店で食べた、エビフライは普通のエビフライだったが…、少し懐かしい味がした。
機会が有れば『今度はクリームコロッケを食べるぞ!』と考えていたが、少し時が経ち……風の噂では、○○デパートは営業を終了したらしい……。そして建物も取り壊されたらしい。
恐らく、二度と食べられないエビフライと食べたかったクリームコロッケだが、エビフライの思い出の中では一番大きい想い出だ……
ドラマの影響で今回は!?
普段のお話と少し違うと思いますけど、今回は特別編でお送りしました!
特別編 終わり
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