11 光の声
ミールの案内でタスクとイオは部屋の奥の扉を潜った。短い廊下の先にある扉を開けるとそこは先程の部屋よりも小さな部屋になっていた。上に抜けるように天井が高くなっており、高い位置の窓からは淡い日の光が室内を照らしていた。何か物があるわけでもなく、ただ広い空間が広がっているだけだが、静寂な空気にさらに厳かな雰囲気が加わったような気がした。
部屋の中央へ進んだミールは、後ろを振り返り部屋を見回していた2人に声をかけた。
「2人共、こちらへ」
示されるまま、2人はミールの前に歩み寄る。
「初めに恵みの力についてお話しします。
恵みの力は、地上に満ちる恵みの力の素となるエシカと言う力と、私たちの身体の中を巡る力である
「…初めて聞く事ばかりだな。その、神殿に記憶させる祷力って、いつも俺たちの中にあるものなのか?」
タスクは、眉間に皺を寄せつつ腕を組んだ。
「ええ。祷力は常に私たちの中にあるのですが、今はまだ知覚するのは難しいでしょう。そこで、光の力を利用します。光の力が私たちの身体に触れることで体内の祷力と混ざり、それを神殿へ流すことで祷力を刻み込むことができます」
「光の力はどうやって神殿に流すの?」
イオの声にミールは一つ頷いた。
「光の力は、光の剣を握ることて自然と身に纏う事ができますが、神殿に流す為に光の力の操り方を体感してもらいます。まずは、光の力の感覚を覚えてもらいましょう」
ミールは難しい顔をしている2人に微笑むと、数歩後ろに下がりながら徐に片手を前に伸ばす。すると、ミールの手のひらが仄かに白い光に覆われ、そこを目掛けて何処からともなく細かな白い光の粒が無数に集まり出した。2人が驚きに目を見張る中、白い光は瞬く間に細長い形に姿を変えていく。そして、長さが出てきたところでミールが細長い光を掴んだ途端、白い光は弾けるかのように消え代わりに1本の白い槍が現れた。
「…なんだ…何処から出て…」
タスクは、ミールが槍を体の横へ立てるように持つ様子を呆然と眺めた。
「今は形を変えていますが、これは2人が持っている剣と同じ光でできた物です。普段は光に姿を変えて体の中に隠しています」
「…そんなことが、できるの…」
驚きのまま槍を眺めていたイオに、ミールは苦笑いをした。
「初めは失敗ばかりでしたが、ようやく上手くできるようになりました。これは光の力に慣れるために行っていたことなので、お2人は覚えなくても問題ありません」
そこでミールは軽く槍を握り直した。
すると槍が微かに白い光を帯びると同時に、温かな日の光を浴びたような感覚が2人を覆った。
「なん…だ」
タスクはその僅かに温かな光を発する槍から目が離せずにいた。
「これが光の力です。この感覚を忘れないでください」
「この温かいのが、光の力…」
イオは温かい空気に包まれたような手を見下ろした。
「次に、光の剣に触れてください」
ミールに言われるがまま、2人は自分の剣の鞘に触れた。
「この槍から感じたものと同じ温かな光の力の感覚を、剣から探り出してください」
槍から発せられた温かな感覚を思い出しただけで、2人の手には剣からじんわりと同じような温かい感覚が伝わってきた。
2人の驚いた表情を確認すると、ミールは静かに話を続ける。
「そのまま、ゆっくりと柄を握ってください。そこから、先程と同じように光の力を探ってください」
ミールの言葉に促されるまま2人は柄を握った。すると、探るまでもなく手のひらから光の温かな力が伝わってきた。その温かな力は、染み込むように手のひらから腕へ流れ込んで来るのが感じられる。
「光の力を確認できたら、光が手から身体に伝ってくるのを追ってください」
「…不思議…まるで、光が身体を覆っていくみたい」
イオは温かな光の力が手から腕、そして身体中を覆って行くのを目で追った。見た目では何も変化が無いにも関わらず、腕から足元まで温かいものが伝っていくのが感じられる。まるで、全身を温かな布で覆ったかのようだ。
「光の力を追うことができたようですね。では、ゆっくり剣を抜いてください」
2人はミールに言われるがまま剣を抜いた。すると、鞘から抜いた刀身からまるで火が灯ったかのように光の力を感じた。それは、今まで感じた力よりもはっきりと感じられ、先程までのが薄い布のような淡い物であったとするならば、今目の前にあるのは硬い岩のように確固とした物としてあるように感じられる。
「この剣は、本当に光でできてたんだな…」
タスクは刀身を見つめながら思わず呟いていた。
「ここからが本題です。先程身体に纏った光を神殿に流します。まず、ゆっくり剣の先を床に付けてください」
ミールの言葉に合わせて、2人は剣の切っ先をそっと床に触れさせた。
「そのまま、身体に纏った光の力に集中してください。身体を覆う光の存在を捉えるのです」
2人は一度剣に向いていた意識を、身体を覆う光へと再び向けた。すぐに全身を覆う光の力が返事をするかのように、温かな力が身体を覆っていることを捉えることができた。
「光の存在を捉えられたら、次は光の動きに集中していきます。光の力が剣から腕へ、腕から胴体へ、そして足まで巡る様子を捉えてください」
ミールの言葉にタスクは思わず眉間に皺をよせた。光の力が剣から腕に移り、腕から胴体まで流れる感覚は捉えることができたが、その先がぼやけてしまってわからなくなってしまう。全身を光が覆っていることは掴めるのだが、その中での動きは紛れてしまってわかりにくい。
その様子を見ながら、ミールは槍の柄の先を静かに床に付けた。
「ゆっくり光の力を追いましょう。…光の力が剣から腕に、腕から胴体へ流れて胴体から足へ…。足まで流れた光はまた胴体へ、そして…腕へ」
タスクは目を閉じて光の気配を追う。ミールの静かな声に合わせて光の気配を追っていくと、自然と気配はぼやけることなく追うことができた。ミールの声に導かれるように腕から全身を巡る光の力を追っていく。
「…腕に戻ってきた光は剣へ流れていきます。全身を巡ってきた光を剣へ戻していきましょう。…剣へ戻した光も追っていきます。僅かに感覚の違う光が身体から戻ってきた光です。その光を追って柄から刀身へ向かいます…。刀身へ流れた光は刃先へ下りていきます。…そのまま刃先から繋がる床へ光を下ろしてください…」
2人が剣先から光の力を床へ流した途端、刃先から波紋のように光が床に広がった。一瞬にして2人の波紋が合わさると、床から壁を伝い部屋中が光の波で覆われた。まるで神殿自体が呼応したような光景に2人は驚き辺りを見回す。
「…これは…」
タスクは一瞬にして広がった光の痕跡が残り、微かに光を帯びる室内を見回した。
「神殿への力の刻み込みが完了しました」
「上手くいったの?」
唖然としたまま聞き返したイオに、ミールはほっとしたように微笑んだ。
「ええ。これで結晶の神殿へ入ることができます。結晶の神殿への道が隠された場所では、先程のように剣からの光の力を捉えるだけでも扉を見つけることができるでしょう」
「光を捉えるだけなら、なんとかなりそうだな」
どこかほっとしたように言うタスクの横で、イオは剣を鞘に納めた。
「その結晶の神殿への入り口は何処に隠されているの?」
「結晶の神殿の一つはナウリの村にあります」
「え…」
ミールが告げた村の名前にイオは思わず固まってしまった。
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