10 出来ること
「後2つ、気になる事を聞いてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
ミールの穏やかな微笑みに後押しされるように、イオは口を開いた。
「1つは、光の神は私達に、"元からある力を引き出しやすくした"と言っていましたけど、具体的に何をしたのですか?昨日魔物と初めて戦った時に、剣を握っただけで驚くほど冷静になれました。身体も、まるで魔物との戦い方を知っているかのように動くことができました。それも関係しているのですか」
その言葉にタスクは口角を上げてイオを見た。
「なんだ、イオも同じ事を考えてたのか」
「…へぇ、タスクでも気がついたんだ」
驚いたように眉を上げるイオに、タスクは目つきを鋭くする。
「ああ?それはどう言う意味だ」
「もう1つの気になっている事は…」
「無視かよ」
2人の様子にミールは思わず笑みを漏らした。
「光の力はどのように使うのですか?私達は光の力を使う適正があると聞きましたけど、実際にはどのように使うのですか」
イオの言葉をまるで予想していたかのように、ミールは穏やかに頷いた。
「それについては、今後の事にも関わりますので順にお話ししましょう」
その言葉に、そっぽを向いていたタスクは姿勢を改めてミールに向き直った。
「まず、光の神が私達の身体に何をしたのかについてお話しします。
光の神は闇の使い手との戦闘に備えて、私達の生存の可能性を上げるために身体の機能を上げています。先代の光の使い手は国でも指折りの戦士でした。彼らを基準に、私達の体の機能を底上げしています。その為、身体の動きに感覚が追いつかない可能性があります。お2人とも、身に覚えがあるかもしれませんね」
「…あ」
タスクは、ここへ来る間に行ったイオとの鍛錬の事を思い出した。
2人で打ち合いをした時には、イメージと身体の動きとのズレに戸惑ったことがあった。
「また、底上げした機能を早く使いこなせるように、光の神は先代の記憶も私達に引き継ぎました。思い出の様な心の記憶ではなく、あくまでも身体の動かし方などの身体の記憶ですが」
「身体の記憶?」
「長年の鍛錬で身に付けた、意識をしなくてもできる戦闘時の身体の動きです。戦い方を知っているかのように動くことが出来たのは、先代の記憶が影響した為です。記憶が蘇るきっかけは光の剣を握る事なので、自然と冷静になれたのは身体が記憶を思い出した為でしょう」
ミールの話を聞きながら、イオは腰に下げた剣を見下ろした。
「光の剣は握る事で、剣から流れてくる光の力を自然と身に纏うことができます。それによって、相反する力である闇の力を感知する事ができる。闇の魔物への対処の仕方がわかったのは、無意識に闇の力を絶とうとした事も影響しているでしょう」
「俺たちは…闇の力を感知していたのか?」
タスクは身に覚えの無いことに首を捻った。
「今はまだわからないかもしれませんが、光の力に慣れてくれば自ずとわかってくるでしょう。
光の力の使い方についてですが、先ほども言ったように光の剣を媒体にして使うことができます。
光の剣は光でできているため、それだけでも闇の力に対して有効な対抗手段になります。闇の力を纏い普通の剣では切ることが難しい相手でも、光の剣でなら切ることができるでしょう。
しかし、剣だけでは闇の使い手に劣る可能性があります。そこで、恵みの力を利用したいと考えています」
「恵みの力って、昔話にある昔の人が使えたって言う力のことですか?」
イオの訝しむ声に、ミールはしっかりと頷いた。
「恵みの力の伝承も、実際にあったことです。人々は昔、水や風、火などの自然を操り生活の一部としていました。そして、身を守る武器としても使っていました」
イオが驚いて息を吐く横で、タスクが声を上げた。
「武器に、なるのか?」
「ええ。魔物を狩ったり、身を守る剣のように恵みの力も武器として使われていました。そして、闇の使い手も恵みの力を利用してくるでしょう。私たちもその可能性に備えて、恵みの力を使えるようにしましょう。恵みの力に光の剣から光の力を纏わせることで、闇に対しての強力な対抗手段とすることができます。また、光の力は恵みの力と使い方が似ているため、恵みの力を使えるようにすれば光の力も扱いやすくなるでしょう」
「恵みの力って言われても…。私たち、使い方なんて知りませんし、聞いた事もありません」
眉を寄せるイオにミールは穏やかに微笑んだ。
「恵みの力が使えた当時は、学校でも使い方を教えるほど身近なものだったようですが、今は力が使えなくなってから長い時が経っています。長い間力が使えなかったことで、使い方は忘れ去られ身体の機能も衰えてしまっています。一度失ってしまったものを取り戻すには長い時間がかかってしまいますが、今の私達にはその時間がありません。
そこで、あるものを使って強制的に恵みの力を呼び覚ましましょう」
「強制的になんて、できるのか?」
目を見張るタスクにミールは落ち着いて語り続ける。
「ええ。先代の光の使い手は光の力によって強まった恵みの力を結晶化して取り出し、国の各地に隠しました。その結晶の力を利用して、衰えてしまった恵みの力を使えるようにしましょう。使い方は先代から受け継いだ身体の記憶が補ってくれるでしょう」
「…なんだか、途方もない話ですね」
イオは緩く首を振った。
「強引な方法にはなりますが、私達にどれほど時間の猶予があるのからない以上、少しでも早く力を付ける必要があります」
「とにかく、やってみるしかないってことか?…あ、えっと…ですか…」
砕けた口調で言った後から、思い出したように言い直したタスクにミールは笑みを漏らした。
「改まった言葉でなくても大丈夫ですよ。私達は共に戦う仲間ですし、名前も呼び捨てていただいて構いません」
笑顔で話すミールを見て、タスクは頬をかいた。
「じゃぁ…ミール、俺達はこれから…恵みの力の結晶を探しに行くのか?」
「そうです。結晶は6種類あります。その一つひとつは、作られた当時の人々でも扱いが困難なほどの強力な力を持っているため、簡単には見つけられないように隠されています。国の各地に結晶を安置する為の神殿があるのですが、そこへ通じる扉も隠されていて資格のない者はその扉も見つけることはできません」
「その資格は、どのようなものなの?」
イオはその資格が想像できずに、僅かに首を傾げた。
「この神殿の儀式の間で、恵みの力の刻み込みを行うことです。力の刻み込みを行った者が、神殿の入り口が隠された場所で恵みの力を発動させることで神殿への扉が現れます。結晶の神殿でも、恵みの力の結晶は目に見えないように隠されていますが、神々の神殿で行うように力の刻み込みを行うことで呼び出すことができます。
また、結晶の神殿で力の刻み込みを行うことで、神殿による加護が発動します。それにより、周辺の街に守りをつけることができます」
「守りってなんだ?」
眉を寄せながら聞いていたタスクがぽつりと口を開いた。
「私達が神殿の加護を発動させることで、闇の力を街から遠ざけることができます。全ての街に加護がつくわけではありませんが、街の周りに光の壁を作るようにある程度の闇の力から守ることができます」
「私達は恵みの結晶を使うためにも、加護を発動させるためにも各地の神殿に行かないといけないんだね」
イオは腰に手を当てた。
「ええ。お2人にはさっそく、恵みの力の刻み込みを行ってもらいます。力の刻み込みは私が支援します。儀式の間は神殿の奥にありますので、ついて来てください」
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