第7話 死にたくないんすよ
「直人、夕焼けきれいだよ」
由紀の声に、思わず顔を上げた。太平洋側なので、朝日は見えても夕日は見えない。ただ、夕焼けはきれいに見えた。冬なので、夕方が来るのは早い。客足の途切れた海の家の前で、僕と由紀とタケシくんは、ぼーっと夕焼け空を見上げた。
「もうすぐ終わりっすね」
タケシくんはまるで他人事のように呟いた。
「そうだね、なんか明日フツーにお雑煮食べる気分だよね」
由紀も他人事のように呟く。僕も「そうだな」と呟いた。
「そろそろ店じまいするっす」
「もう?」
「ここちゃんときれいにしておきたいんで」
「タケシくん、エラい」
「なんつか、ケジメっすよ」
3人で少しずつ店じまいをする。何人かの人が通りすぎて行った。たくさんの客たちが来てくれた。カップル、夫婦、親子連れ、車椅子や松葉杖の人も。地球最後の日に海を見る人は、意外にもたくさんいた。僕らだけではなかった。
タケシくんのボロい軽トラに荷物を載せて、暗くなってきた海辺で僕らは別れることにした。タケシくんは別れ際に泣いた。
「俺、ホントは死にたくないんすよ」
ぼろぼろと涙を流し、ポケットティッシュで鼻をかんで、彼は泣いた。
「親父もお袋もガキの頃に死んじまって、俺、施設で育って。海が好きだから海の家やりたくてここまで来て。施設の先生たちとか、仲間たちとかに最後にご馳走してやりたかったけど」
僕は持っていた一袋のティッシュを、彼に差し出した。
「みんな少しずつ自殺しちまって。どうせ今日死ぬんだから、先に逝かなくてもいいのによ。少しずついなくなって。なんで死んじまうのかな、自分で。小さい施設だったから、俺一人だけ残っちまった」
2年前に地球が壊れるニュースが公になってから、自殺者は格段に増えた。暴動や怪しい宗教は少なくても、自殺する人が急に増えていた。僕の両親のように心中したり、一人で死んだり。僕はそれをただ黙って見ていた。絶望感を持って。
「なんで今日までがんばって生きねぇんだよ、どうせいつかはみんな死ぬのによ。わざわざ自殺なんかしなくてもいいじゃんよ」
それを聞いていた由紀が、「ああああああああー」と、突然大きな声を上げて泣き始めた。
「わかるよぉ、タケシくん、私だって死にたくないよぉ!」
「そうっすよね、由紀さん!」
「やだよぉー!!」
「やだああああああああ!」
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