第6話 お手伝い
目の前に並んだタケシくん作の料理はおいしそうだった。僕らは焼きそばとお好み焼きとフランクフルトを黙々と食べながら、海の音を聴いて、ときどき言葉を交わした。タケシくんは店の外で、タバコをふかしている。
「直人、ご両親、亡くなったんだって?」
「よく知ってるな」
「テレビで見た。ニュースでやってた」
「ああ、心中だったからなあ」
「大変だったね」
「少しね」
「直人、ひとりっ子だしね」
「そのぶん気楽に葬式済ませた」
お好み焼きの予想外の旨さに、僕は驚いていた。タケシくんはどこで修行したのだろう。
「らっしゃーい」
タケシくんの声が聞こえてきて、中年後期らしい夫婦が海の家に入ってくるのが見えた。由紀は「手伝う!」と叫んで、いそいそと立ち上がる。僕はまだ残っていたお好み焼きを食べていた。
「直人も食べ終わったら手伝うんだからね」
「わかったよ」
麦茶の湯呑みを二つ、お盆の上に乗せて由紀は歩いている。昔ファミレスでバイトしていた彼女には、慣れたものだろう。その頃の由紀はこんなに丸顔ではなかったが。
「お姉さん、ありがとっす」
「あ、私、由紀。あいつは直人。よろしくね」
「うぃっす、ありがとうございます」
タケシくんと由紀が話す声が聞こえる。逆方向から、夫婦者の会話もかすかに聞こえる。隣の誰かが先週自殺したとか、今日この後はどうやって過ごそうかとか。もしかしたら、この店は一日繁盛するかもしれないと、ぼんやり考えた。地球最後の日に海を見るのも悪くない。そう思っていたら、本当にもう一組、若いカップルが入ってきた。僕は立ち上がって、本格的に手伝う態勢に入った。
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