第3話 ドラマチックでない人生
12月に入ってから、世界中で職場も学校も閉じられた。ライフラインにかかわる仕事だけを残して。皆、残された日々を好きに過ごせという粋なはからいだ。仕事がなくなり、やることがなくなった僕は、とても退屈な一ヶ月を過ごした。一緒に過ごしたい人などいなかったので、このまま一人でサヨナラするのかと思っていた。まさか由紀がやって来るとは思いもしなかったので。
「この4年くらい、何してたの?」
インスタントラーメンのスープを飲み干して、由紀はおもむろに呟いた。
「え、仕事かな」
「他の女の子とつきあってなかったの?」
「そういや、なかったな」
「私は結婚して離婚したわ」
「えっ」
「瞬間風速みたいな結婚だったわね」
知らなかった。まあ4年もあれば、結婚、離婚くらいはほどほどにできる時間はある。僕は結婚したいと思ったこともなかったので、由紀と別れた後は一人で気楽に仕事をして、地球が終わると知ってからはぼんやりした毎日を過ごすだけだった。
「誰と結婚してたの?」
「直人の知らない人」
「そうか、まあそうだよな」
「地球終わるってわかったら、そいつ浮気相手のところに行くって言うからさ。離婚した」
「マジか」
「マジよ」
「ドラマか」
「それほどでもない」
地球最後の日に向けて、この世でどれほどのドラマチックな出来事があったのだろう。僕には何もなかった。あったとすれば両親が心中したことくらいか。あれも淡々と受け入れてしまったので、ドラマチックではなかった。ただただ忙しいだけだった。何かドラマチックなことでも体験しておけばよかったと、今さらになって少し後悔する。
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