第2話 4年前のラーメン

 僕はインスタントコーヒーで適当にコーヒーを作り、由紀に差し出した。由紀はありがとうと呟いて、それを飲み始める。掃除もしていない部屋の真ん中に座り込み、テレビをつけた。つけたけれども、気に入らないらしく、すぐに消した。

「由紀は世界が終わるから不安なのか?」

「別に」

「それならどうしてここに来たんだよ」

「なんとなく。つまんなかったから。一人で終わってもよかったけどさ」

「僕は一人のほうがよかったんだけど」

「私が来て、迷惑?」

「まあいいよ、一人でも二人でも結果は変わらないから」

 由紀の大きいバッグの中から、今はあまり見ることのなくなった電車の切符が出てきた。僕のほうに差し出すので、受け取って眺めてみる。12月30日の日付だ。ついさっき31日になったばかりなので、電車に乗ったのは30日のうちだろう。

「駅で回収しなかったの。記念にくれるって」

「記念にね。切符で電車に乗ったのか」

「記念にね」

「記念に、か。もう終わるのに記念も何もないよな」

由紀はさらにバッグの中を探り、インスタントラーメンを二つ出してきた。いずれも数年前に売っていて、今はなくなった懐かしいパッケージだった。

「これ、直人が私んちに置いてったラーメン」

「4年以上前のものかよ」

「食べよっか」

「腹こわさないか」

「いいでしょ、どうせ地球終わるんだから、お腹のひとつやふたつ」

昔懐かしいやかんに水を入れ、お湯を沸かす。このアパートは昔風にできていて、まだガス台がある。どこの家もキッチンは電気仕掛けになっていたが、僕はガスのほうが好きだった。だからここに決めた。シュンシュンと沸騰する音がする。冬にこの音を聞くのが好きだった。なんとなく、母親の顔を思い出す。やかんと沸騰と母の顔。我ながら古風というかステレオタイプというか、つまらない男だなと自分を怪しんだ。

 インスタントラーメンを食べてみると、思いのほか旨かった。昔のものでも食べられるものだと感心する。由紀ははねたスープが目に入ったとぶつぶつ言っている。別れた恋人ではあるが、意外にも昔の友達のように接することができた。地球が終わると思うと、人間は寛容になるのだろうか。まあ、人による。



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