たとえばかき氷のような(恋愛)
爽太くんとは中学に入った時に同じクラスの、隣の席になってからお友達だ。
周りのみんなとすぐに打ち解ける陽キャな爽太くんは、名前の通り爽やかな男の子だ。
わたしはっていうと、ちょっと用事で誰かに話しかけないといけない時だってどきどきびくびくしちゃう。爽太くんとは真逆の陰キャ。
でも爽太くんはわたしもグループの中に引き入れてくれて、その中でだけはちょっとだけ、しゃべれるようになったんだった。
でも、五年経っても、性格はそんなに変わらない。
爽太くんは相変わらず爽やかで、グループのリーダーだ。
彼だったらクラスどころか学年を引っ張っていけるぐらいなんじゃないかって思うんだけど、それはイヤなんだって。
おれは小山の大将がいいんだ、だそうだ。
だから今でも男子三人、女子二人のグループの中で仕切ってくれている。先生とか他の子達からの頼まれごとは可能な限り引き受けるけど、気が乗らなかったり、できないと思ったらはっきり断っちゃってる。
すごいなぁって思う。
わたしは、そこまではっきり言えないし、ずるずるっと嫌なこと任されちゃいそう。
そういうのがないのは、爽太くんが守ってくれているからだ。
わたしが何も言えない時に、「みっちょんがおとなしいからって押し付けようとするなよー」ってさらっとフォローしてくれる。
頼もしい、憧れのお友達。
だったんだけど。
「ねー、爽太ってさ、好きな子いるみたいよ。この前、隣のクラスの子が爽太に告ったら、好きな子いるんだってフラれたって」
女子で唯一のお友達、花梨ちゃんがこそっと教えてくれた。
「好きな子、え、……誰?」
「みっちょんも知らないんだ? 仲いいし中学ん時から仲いいから教えてもらってると思ってたのに」
花梨ちゃんは当てが外れたなぁって笑ってる。
わたしは、そんなあっさり笑えない自分に気づいてしまった。
そうか、爽太くん、好きな子いるんだ、って思ったら、胸がぎゅってなる。
「よー、みっちょん、一緒に帰ろー」
爽太くんが来た。
「さりげなく聞いといてよ。それじゃーまた明日ー」
花梨ちゃんが最初の部分はそっと耳打ちして、顔を離して手を振って教室を出ていった。
「何話してたの?」
爽太くんの好きな人って誰?
さらっと聞けないかって思ったけど。
すごくどきどき。
だめだめだめ。聞けるわけないよぉ。
「え、う、ううん、たいしたことじゃなくて……」
うつむいてしまった。
「ほんと? 変な頼まれごととかされてないよな?」
頼まれごと、されたけど……。
言えないー!
思いっきり首を振ったら、笑われた。
「あっちぃなぁ。かき氷食ってかね?」
家の近くの商店街で、かき氷が売ってる。爽太くんが吸い寄せられるようにお店に寄っていった。
そういうところ、ちょっとかわいい。
思わずふふっと笑いを漏らしながら、わたしは爽太くんに吸い寄せられてった。
爽太くんが選んだのはイチゴミルク。ちょっと意外。ブルーハワイとかそういうクールな感じなのが好きなのかなって思ってた。
「みっちょんはレモンサワーか。そっちもいいよな、さっぱりしてて」
爽太くんは言いながら、すごく美味しそうにしゃくしゃくと氷と蜜を混ぜて食べていく。
こういうのって、ちょっとデートっぽいけど。
二人で並んでかき氷を食べてるのを見られても、多分、わたしとじゃウワサになんかならないんだろうな。
また胸がぎゅっとなる。
爽太くんの好きな人、誰なんだろう。
「あのさー、おれ、みっちょんに言いたいこと、あるんだよね」
さくっとかき氷をすくってほおばってから、爽太くんが言う。
顔を見たら、思ってたより真剣な顔だった。
あ、これってもしかして、好きな子の相談?
「おれさ、隣のクラスの子に付き合ってって言われちゃってさ。けど、断ったんだ」
「へぇぇ、そうなんだ?」
白々しいかなぁと思いつつ、驚いたふりをした。
「好きな子がいるんだよ」
きた、きたきた!
「そ、そうなんだ……」
緊張で声が小さくなる。
目をそらした。どきどきしすぎて顔を見られない。
それって誰?
その一言をさらっといえばいいだけなのに、怖くて聞けない。
だって、わたしじゃないんだし。
爽太くんの笑い声がした。
えっ、と彼の顔を見る。
「みっちょん、すんごい予想通りの反応」
そう、なんだ。
照れ笑い。
「おれの好きな子ってさ、おとなしくて、人に頼まれごととかされても断れなくて損しそうだから放っておけないんだけど、そばにいるとちょっと安心する、不思議な子なんだよ」
すごい、わたしそっくりな内気な子だね。誰だろう。
って思ってたら、また笑われた。
なんで笑うんだろう。
驚いてると、「誰だろうって思ってるでしょ」って言われた。
「うん、誰?」
「みっちょん、だよ」
驚いてかき氷のカップを落としそうになった。
「どうして……」
わたしなんて、かわいくもないし美人でもない。勉強だって運動だってできないし、爽太くんがいってるみたいに自分から人に話しかけるなんてまだ全然できない、つまらない子なのに。
「さっきも言ったけど、そばにいてて放っておけないし安心するし。それにさ」
爽太くんはかき氷のカップをわたしの目の前に持ってきた。
「例えばかき氷ってさ、子供のころからずっと同じ味が好きなんだよ。いろんな味があるしそっちの方が美味しいとか高級とか言われても、おれにとってかき氷はイチゴミルクなんだよな」
にこっと笑って、爽太くんはイチゴミルクのかかった氷を美味しそうにパクっと食べる。
「みっちょんって、おれにとって、そういう人なんだよ。みんながほかにもっといい人いるだろうってたとえ言ったとしても……、言わせないけどさ、おれには、みっちょんなんだよ」
涙が出てきた。
もちろん、うれし涙、だけど。
「わたし、わた……、し……、もしかしたら、イチゴミルクじゃなくて、レモンサワー……、かもしれないよ?」
付き合ってみたら幻滅されてフラれるなんてイヤだ。
「そうだったら、きっとレモンサワーも好きな味になる」
止めだった。
もう、ただただ嬉しいしかなくなった。
「付き合ってよ、みっちょん」
「……うん」
爽太くんは、やったね、と笑って嬉しそうにかき氷を食べる。
今日のレモンサワーは、いつもよりしょっぱくて、美味しかった。
(了)
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お題:かき氷
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