立て板に水、横板に雨垂れ(現代)

 すらすらっと話せるやつがうらやましい。

 そう、例えば今隣にいるこいつ、畑山とか。

 畑山は口から生まれてきたんじゃないかってクラスのみんなに言われるぐらい、よくしゃべる。

 僕は想定外のことを振られたりすると一気にキョドって言葉が詰まっちゃうのに。

 こいつにあうのってもっとコミュニケーション能力高いやつなんじゃないか? と常々思うんだけど、なんでか畑山は僕を気にいってるらしい。

 らしいってのは、別の友達からの情報だから。

 さすがに本人に聞けないだろう、なんで僕のそばにいるの、なんて。恋人かよっ。男同士でそれはないわー。

 なんてことを僕が考えてる間にも、隣の友人はずっとしゃべり続けてる。

 今の話題は……、「絶対領域」らしい。ミニスカートとハイソックスの間の生足は光り輝いているとかそんなことをアツく語ってる。

 これだけだとただのヘンタイ野郎だけど、畑山の話題はとにかく広い。

 で、ふと思ったんだ。

 こいつみたいにずっとしゃべり続けているやつと、コミュニケーション能力がやたら高いのが対面したら話の流れはどうなるんだろう、って。

 ちょうど話が一段落してのどを潤すために水筒のお茶を飲んでいる畑山に問いかけてみた。

 こういう隙にしか話しかけられないんだよなー。

「なぁ。もしもさ、人の話も聞かずにずっと話し続けてるやつと、めっちゃコミュ力あるやつが会話したらどうなると思う?」

 ちょうどお茶を口に含んだところらしく「むっ」とくぐもった声をあげて、畑山はごくんと音を立ててお茶を飲み込んだ。

「ばっかだなぁ、おまえそんなことも判らないのかよ」

 畑山はへらりと笑って僕に指をつきつけた。

「人の話も聞かないような言っちゃ悪いが狂人レベルは周りがどんな反応しようがずーっとしゃべり続けてるんだから、暖簾に腕押し糠に釘ミイラ男に秘技親指隠しだ」

 なるほど、って、なんだ最後のはっ?

「なんだその顔? 判らないか? 手ごたえがないことのたとえに決まっているだろ」

「いや、最初の二つはいいとして、さ、最後のはっ?」

「ミイラ男みたいな不吉な物をみたら親指隠すの常識だろう」

「それって、霊柩車――」

「じゃあ神にチェーンソーとか」

「い、意味合いが……」

 手ごたえがないの意味合いが変わってきてないか? って言いたかったけどあまりの突飛さにうまく言葉が出てこない。

 あわあわしている僕にお構いなしとばかりに畑山はゲームの攻略話に移っていった。

 朝のホームルームのチャイムが鳴っても話し続けてる畑山に、僕はただただ相槌を返すだけ。それでも気を悪くする訳でもなくひたすら話してる。


「畑山本当によくしゃべるよな」

「付き合えるのってあいつだけじゃね?」

「いいんじゃね? あいつが聞き役になってくれてたら俺らの方に畑山こないし」

「立て板に水と横板に雨垂れコンビだな」


 こんなふうに言われているのに僕が気づくのは一年近く後、卒業間近になってからだった。

 体よく押し付けられてたってことか。

 まぁいいけどね。畑山の話はわりと面白かったし。



(了)



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 お題:ミニスカート 秘技!親指隠し やたらと饒舌で一切コミュニケーションがとれない狂人 コミュニケーション能力おばけ ミイラ男 光る

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