第7話 怒りの矛先

他校の校門前

仲間を引き連れ一年坊主が他校の校門前を徘徊している。


少しでもこちらを睨み付けるような生徒がいると橘の指示で絡み付ける。

もっぱら2年生、3年生の部活もやっていないツッパリくん対象の先輩狩りだ。

カツアゲの交渉が長引くと、橘が後から登場し秒で剥ぎ取っていく。


夜中になると橘達は深夜に自分達の居場所を見つける。🏍️

バイクに乗り、海沿いの134号線までは30分位

深夜の車通りの少ない、暗がりの街が橘達の居場所であり、朝方の紫に映し出される街並みや道路が、牙をむき出しにした、行き場のない橘達のエネルギーを安らかにする唯一の時間であった。


気付いたら高校に入学し、初めてのお正月が過ぎ、春になれば2年生、甲子園へのチャンスが残り3回しか無いことに気付いた💦


しかし、橘の腰の状況は治療を重ねながらも一向に良くはならない。


『何やってるんだ俺は…中山が生きていたら怒られるよな…』


橘は決心をした

もう、野球が出来なくなっても、酷くなり生活に支障が出ても、言い訳して諦めたくはない

半年以上のブランクで随分と鈍ってしまった身体を少しずつ、回復させるように部活に復活した。


しばらくすると公式戦の為に、背番号入りのユニホームが配られる時期に来た。

いつもなら木谷コーチが背番号と名前を発表され、それを選手達が受け取る。


木谷コーチ

『えー、お前達も知っての通りこれからユニホームを配ります』

『はい!』


『今回は…自信のある奴、ユニホームを取りに来い』

ざわつく生徒達💦

それもそうだ、今迄にないことだから生徒達はみんな戸惑っている。


『はい!』

威勢良く1番に手を上げたのは橘だ💦


更にざわつく生徒達

それもその筈だ

橘は長い間、練習にも顔を出さずに、完全復帰でもない、しかも復帰して僅か1週間足らずで上級生すら差し置き、いの一番に手を上げたのだから💦


それでも木谷コーチは笑いながら

『お前、いい度胸しとるのぉ~😁』

とユニホームを差し出した。


明らかな、えこひいきであろう

でも木谷には、橘に何かを期待せずにはいられなかったのである。


それでも面白くない部員達は沢山いた。


『おい!』

『何だよ?』

練習後のグラウンド

残って片付けをしている橘に1人の同級生が近付いて来た。


『お前よ、みんながヘコヘコするからって生意気なんだよ💢』

『あら、そりゃ申し訳無いね😁』

『何ニヤニヤしてるんだよ💢』

『だってそんなこと言ってくれる子、中々いないし、ましてや野球部に居るなんて嬉しいじゃん🎵』

『お前、木谷にえこひいきされてるからって調子こいてんなよ💢』

『なぁ、口喧嘩するために呼んだなら、僕帰っても良いですか?』

『うっ、マジでムカつく💢💢』

同級生の平田は硬派の力自慢だった。


『5分もったら高校球児にしては立派だな😁』

『何っ、お前だって球児だろうが』


飛び掛かる平田

橘は怪力の平田を一瞬にして倒し、マウントポジションとなり、振り上げた拳を顔すれすれで止めた。

圧倒的な喧嘩慣れの違いに、平田はなす術もなく降参をした。


それでも橘は、平田を気に入った。

平田も橘を気に入り仲良しになった。


ところが、世の中は橘中心には回ってない

ツケは必ず回ってくる。


2月も終わりの頃、後1ヶ月もしないで春休み、週末の良く晴れた日だった。

橘は腰をかばいながらも、練習をこなしていき徐々に勘を取り戻してきた

『やっぱり野球楽しいんだよなぁ』

『お前が本気になったらレギュラーもすぐだな』

『平田、レギュラー何て当たり前で、俺が復活したら、初の甲子園も夢じゃないんだよ』

『やっぱお前の言い方ムカつくな💦』😁


『おい、橘ちょっと来い』


担任のサッカー部顧問に橘は呼び出された。

そこには木谷先生を眼を赤くして立っていた。


『橘…今、室屋と室屋のお母さんが学校に来て、お前からバイクを買ったと言っている。しかもそのバイクは窃盗したバイクらしい、それとお前は他校に行って上級生からカツアゲしたり、他所の生徒としょっちゅう喧嘩していると聞いたが本当なのか?』

『…』

『橘、本当か?』(木谷)

『…全部本当です』


『じゃあ決まりだな、今から親にも学校に来て貰う』


それから約2時間が経過し

校内の取調室の様な狭い部屋で、ただただ親の到着を待った


母親が到着し、担任、木谷、橘、母親の4名で話が始まった。


淡々と話す担任、表情1つ変えない橘


対照的に、木谷と母親は泣いている。


『まぁ、選ぶ道は1つに1つだな、自主退学をしてください』

『え、停学とかじゃないんですか?』(母親)

『お母さん、やったことがやったことですから』


橘は冷静だった

サッカー部のヤンキーかぶれがバイクが欲しくて、橘から窃盗車で良いから売ってくれと言い買った。

そいつは部活にも付いて行けず、出席日数が足りなくなり学校を退学になったのだが、辞めた後に、母親と一緒に橘の事をチクリに来たのだ。

それでも橘は『他にも俺に消えて貰いたい奴はいっぱい居るんだろうなぁ』と冷静に受け止めていた。


木谷先生と母親の泣いている顔が橘の脳裏に焼き付いてしまった。


その日のうちに荷物をまとめ、学校を母親と出たのは夕方

あれだけ晴天だった空は、同じ日とは思えない位に雨に変わっていた☔


『天気も人生も1日でこんなに変わるんだぁ』

雨に打たれながら橘は心の中で謝った

『中山ごめんなぁ、甲子園連れていく約束を裏切っちゃって😢みんなごめんなぁ😢』


『おかんごめん』

『しょうがないよ😢やっちゃったことはしょうがない、これから頑張りなさい、学校何て遅かれ早かれ卒業するんだから、人より早く社会人になれるんだからラッキーじゃん』

『まぁなぁ(笑)』


15歳の橘にとって、初めての挫折であり

人生が1日にして変わった特別な日だった。


ここから、橘の人生は動き出して行くのである。



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