第6話 始めての挫折

甲子園に行けるチャンスはあと5回

入学したと同時に甲子園へのカウントダウンが始まった。

中山との約束を果たす為に

いつも味方である、家族、おばちゃん先生、仲間との約束の為に…


橘は自信があった

レギュラーになる自信、甲子園に行く自信

根拠の無い自信かも知れない

それでも橘には確固たる自信があった。


甲子園に出場するようなチームは、部員が100名を超す。

レギュラーになると言うことは9/100にならないといけない

でも簡単だ、練習が厳しいお陰で半分は練習で脱落してくれる。

基礎体力は中学生から高校生になったばかりと言えども、小学生の時からオリンピックに出場する選手達と練習している橘には兼ね備えている。


残りは9/50だ

それも簡単だ!

厳しい練習を笑顔でやれば良い。

苦しくても『苦しい😣』なんて顔に出さない

同じやるなら笑ってやれば良い🎵

周りのチームメイトを気遣ってやれば良い✨

それが出来れば9/50に必ずなれる。


そして自分がチームを引っ張れば甲子園も夢ではない✨

そう橘は信じてやっていた。


ところが橘にとって、初めての挫折が待ち受けていた💦


はじめは筋肉痛の延長か、練習のし過ぎで少し痛めたのか?腰に今迄にない違和感を感じていた。

そしてそれは次第に今迄出来ていた練習が出来なくなっていた。


それでも『少し疲れているのだろう』と練習をしていたが、普段通りの生活さえも、ままならなくなっていた💦

少しの時間でも、座っていることすら出来ない

痛みでイライラしてくる。


職員室、野球部の先生に話掛ける橘

『先生』

『どうした?』

『何か腰の調子が良くないので病院に行ってきます』

『おぉ、そうか、無理するな、病院で結果わかったら知らせてくれ』

『はい』


野球部顧問の木谷は橘を特別な目で見ていた。

野球の技術こそ、まだまだなものの、野球に取り込む姿勢、存在感は1年生ながら絶大である。

この子は必ず2年生、3年生になれば、この子が引っ張るチームになると予感していた。


整体、マッサージ、カイロプラクティック、注射💉ありとあらゆる『腰に良い』と言われる治療を橘の親も惜しみ無く、受けさせて上げた。

歯の治療にもお金を掛けてあげた。

それでも橘の腰は一向に良くならず、紹介状を書いて貰い大学病院で検査をすることになった。


病院

『橘くん、検査結果が出ました。これは第5腰椎分離症ですねぇ。ほらここ、ハッキリ離れているの見えるでしょ?』

『あ、はい』

『珍しくはないんだ、成長期での過度な運動のし過ぎ、プロ野球選手でもいるよ、ただこの離れた腰椎が神経に当たるかどうかで、痛みには個人差がある、ちょっと橘くんのは酷そうだね』

『あの、野球は続けられますか?』

『正直に言わせて貰ったら、後の生活を考えたら高校野球は辞めた方が良いなぁ、酷くなったら下半身麻痺もあらゆるよ』

『…しゅ、手術とかしてもダメなんですか?』

『正直に手術しても良くなる可能性は20%も今の技術では無いんだ💦』


残り5回のチャンスも見えなくなった。

橘の目の前は緞帳(どんちょう)が閉まった様に真っ暗になった。

たかが高校野球、たかが甲子園ではあるが

目標の無くなった橘は、糸の切れたタコの様にまた夜の街へと、自分の居場所をさ迷うのであった。


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