第5話 歯無しの中学球児

中学の卒業まであと半年

野球推薦が決まっている橘には、受験の無い何とも優雅な時間であった。


週末には高校に練習に行っている為、週明けの月曜日はとてつもない筋肉痛に襲われている。


キーンコーンカーンコーン♪

朝の学校のチャイムが鳴る頃、橘は階段の手すりを掴みながら重たい足を引き吊り教室に向かう。

教室に入ると橘と入れ違いに、不良グループが教室から出ていく。

『橘全然夜遊んでくれねぇ~からつまんねぇ~よ』

と言い、出ていく不良仲間。


教室に入ると、朝からどんよりとした暗い空気に包まれている。

隣の席の子に

『どうした?朝から辛気臭ぇ~な』


誰も何も言わないが、明らかに不穏な空気だ。


授業が終わり休み時間になったとき、2人のクラスメイトが橘の席に近寄ってきた。

『橘…実は俺らあいつらにカツアゲされてるんだ』

『俺ら以外にも、何人も…結構前から』



小学生の時と同じである

『橘…中学生と喧嘩になったんだ💦で、来週中学生の代表とうちらの代表でタイマンすることになったんだけど、橘行ってくれないか?』


橘は断ることが出来ずに全く関係のない喧嘩をしないといけなくなった。

結果、橘は中学生に勝ち、中学に上がった時もその先輩達から、ボンタンやエナメルのベルトなど沢山貢ぎ物を頂き1年生から生意気な橘が形成されてしまったのは仕方のないことである。


また同じ様に橘は、カツアゲをしている不良グループを呼び出す事になってしまった。


『橘、勘弁してくれよ、お前には迷惑掛けてないだろ?』

『何でそんな金がいるんだよ?』

『族の先輩に用意しろって言われちゃってるのよ』

『だから、知らねぇ奴とつるむのつまんねぇーよって言ったべ』

『…俺らだって嫌だよ💦』


『わかった、お前らも断れないんだろ?お前らも俺からしたら仲間だし、クラスの奴も仲間なんだよ、だから、その族の先輩連れてこいよ』

『橘…、いくらお前でもヤバイよ💦』


夜の公園

不良グループの同級生に暴走族の先輩の計6人に囲まれる橘

『わかってはいたけど、俺1人に随分の人数いるね?』

『お前か?強いんだって?』

『試してみろよ』

『中坊のくせして生意気なんだよ💢』

『中坊相手にカツアゲ何てしてんじゃねぇーよ💢』

『お前らやれ、こいつやらなきゃ、お前ら今度の集会でしめるぞ!』


何の為の喧嘩なのか?

不良仲間は、中1の時、既に橘にしめられていた。

力関係はわかっていた。

それでも橘は子分としてではなく、仲間として遊んでいた。

でも橘は中山の死を切っ掛けに、野球を一生懸命やることになり、不良仲間達は暴走族に入り先輩に支配されてしまった。

悲しい喧嘩である、橘は真面目な友達の為に仲間と喧嘩をしないと行けなかった。

不良仲間もまた、タイマンでは勝てないとわかっている昔の仲間に、先輩からの圧力で戦わざるを得なかった。

まるで闘犬同士が見せ物の様に戦わされているように…


ボキッ❗

1人の腕を橘が折った。

『痛ってぇ~』


バキッ❗

橘の背後から角材で殴り付ける暴走族の先輩。


ブチャ❗

しゃがみこむ橘の顔面に、鋭いヨーロピアンの革靴がめり込んだ💦

橘の前歯が飛んだ💦


一瞬怯んだ橘に、全員が殴る蹴るのリンチ状態

それでも1人の腕を必死に掴み応戦する橘

そこにパトカーのサイレント🚨が鳴り響き、クモの巣を散らす様にみんなが逃げていった。


動けなくなった橘だけが警察に補導され、病院に連れていかれ事情聴取を受けたが

『知らない奴と喧嘩になり、顔は覚えてない』とずっと言い張った。


橘の顔は腫れ上がり、前歯は無くなり、顔の原型が変わっていた。

普通なら1週間は入院のはずが、橘は無理矢理家に帰り、次の朝、顔に包帯をぐるぐる巻きの状態で学校に行った。


教室に入ると、クラスがざわついた。

『橘くん喧嘩したらしいよ』

『野球一生懸命やるようになってちょっとかっこいいなぁ、って思ってたのに、やっぱり不良は不良ね😢』


クラスに入ってくる不良

『おう、良く学校来れたなぁ』

『しかし、みんなの為に喧嘩して、誰もお前に感謝しないって笑えるなぁ』


『おぃ、まだコイツらからカツアゲしたら、俺は何度やられても、1人ずつお前らぶっ潰すからなぁ💢』

ボロボロの顔で凄む橘に、不良グループは狂気を感じ怯む


ガラガラガラ

教室のドアが開きオバサン先生が入ってきたと同時に不良達は出ていった。

『あっ、あなたどうしたの?💦』

『転んだ』


『何言ってるのよ💦せっかく野球推薦で高校決まったのに、こんな顔になっちゃって😭』

『先生泣くなよ、大丈夫だよ』


しばらくが経ち

入試のシーズンが春の訪れを待たずにやって来た

『橘、男前の顔に戻ったね😁、あんたは面接さえクリアすれば、野球で入れるんだから絶対に笑っちゃダメよ』

『何でだよ?愛想振り撒いた方がいいべ』

『坊主で歯の無いあんたの顔はVシネマの世界よ、絶対に笑っちゃダメ、笑わなければばれないから』

『ひっでぇーなぁー(笑)』

『ほらっ、歯が無いのばれる(笑)』


オバサン先生はいつも橘の味方だ

そして例の喧嘩以来、不良グループ達のカツアゲは無くなった。

それでもクラスの同級生は橘の喧嘩の理由を知る人は居なかった。


喧嘩でボコボコにされた相手を警察に売ることもしない、同級生のカツアゲを止める為に喧嘩をしても誰からも感謝もされない。

それでも橘は仲間を大事にした。

それには、こんな話があった。


『おぃ橘、お前毎年誰かしら怪我させているけど、力こそ全てだと思ってないか?社会に出たら勉強もだが、そんなの何の役にも立たないぞ、強さとは耐える力だ、お前が他人を守れるかどうかが本当の強さなんだよ、人を傷付けるのではなく、人を守りなさい』


世の中に強い奴は死ぬほどいる。

そこを極めたいわけでもない

いつも何かに怒りを見つけ、戦いの本能を掻き立てるより、仲間と笑っている人生が良い、仲間に必要とされる人で居たいと橘は思った。

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