第14話真眼……

 数日後、アネットがあることを切り出した。


「アキト、セツナ。今までありがとう。ここでお別れにしよう」


「え?」


「キュー?」


 突然の話に口を半開きにして呆気にとられる2人。


「えっと、アネット? どういうこと?」


 やっとの思いでお母さんの事を乗り越える事が出来たアネットとこれから先に待つ楽しい事を共に分かちあおうと思っていたアキトだった。


そのため動揺してしまうのも無理はない。


「私は今までお母さんの帰りを待つことに生きる意味を感じていたと思うの。でも2人の

おかげでお母さんがいなくなっても生きていこうと思えたし、この眼のこともなんとか受け入れて生きていこうと思えた」


「それならなんで……」


「私と一緒にいたらまた暴走した時、今度はアキトやセツナが消えちゃうかもしれない。今度そうなったら私は自分を保てる自信はないと思う。だからここで……さようならにしよう」


 アキトの言葉を遮って吐露した言葉から、アネットの胸中は手に取るように読み取れた。


 それでもアキトは暗い顔をするアネットに言葉を投げかける。


「アネット、今から実験に付き合ってもらってもいい?」


「……え?」


 人の話を聞いていなかったのかと問いたくもなるアネットの気持ちも理解できなくもない。


 それでもアキトは言葉を続ける。


「僕の守護霊の能力を使ってアネットを調べてみたいんだ。何かその魔眼についてわかるかもしれない。もしそれでアネットの問題が解決できたなら今度は一緒に旅をしよう!」


(まぁどっちにしても連れて行くけど……)


 口には出さないが、アキトの思いは既に決まっていた。


「ほんとに?」


「もちろんだよ! 任せて、神に誓ってもなんとかするよ!」


「うん……ありがと」


 気恥ずかしさからか俯きながらも返事をしてくれる。


 アネットの魔眼について調べる方法として、アキトには1つだけ思いついているものがあった。


 それは守護霊の左手の能力:魔力共有である。セツナと魔力共有をした時、セツナの魔力に関する全てを把握する事ができた。


 だから、もしもアネットの体調が悪くなる理由が魔力に関するものであるならば、解決する事が出来るかもしれないと思ったのだ。


(何はともあれモノは試し)


 左腕の守護霊を出して、アネットの頭に触れさせる。そしていつもより慎重に左腕の能力を発動させた。


 魔力共有。


アキトはアネットと守護霊を介して出来た繋がりを認識した。


アネットの魔力をアキトにも共有させることで、アネットの魔力によって出来ること、また魔力のせいで起こることに対して、何らかのアプローチが出来る。


それが仮に魔眼に関することであってもだ。


(果たして結果は……やっぱりな)


 予想は当たっていた。魔眼はどうやら魔力が作用しているようであった。


 そして魔眼がもたらすスキルは、アネットの中に数多く存在していた。


 アネット自身魔眼についてもよく分かっていなかったため自分のスキルについて把握していないようだが、非常に有用なものを多く持っていた。


 中でも鑑定は、アキトが手に入れたかった能力の1つであり、アネットの身体の異変を明らかにするためにほしい能力でもあった。


 魔力共有によってアネットの中のスキルを使用可能になったアキトはさっそく鑑定を使ってみる。もちろん鑑定対象はアネットの魔眼。


 鑑定を発動させると、結果が頭の中に浮かんでくる。なんとも不思議な感覚だがアネットの魔眼の正体は分かった。


「邪神の真眼」


(何だ? この名前からして恐ろしいモノは。確かに“邪神”と書かれている……よな。何これ恐い。もっとでももっと詳しく見ないと……)


 さらに魔力を注いで詳しく鑑定をしてみる。


 邪神の真眼 能力:輪廻追放


(輪廻追放? 輪廻ってあの輪廻?)


 続けて今度は輪廻追放について見てみる。


 輪廻追放:対象の存在を消す

  (発動条件:魔力を蓄積、次いで生命力を魔力に変換しその全てを消費)


(何だこの能力は……)


 働き蟻の行動もこれで納得がいった。対象の存在自体を消す、輪廻からの追放。つまり元々この世界に存在していなかった事にするということだろう


 あの時、女王蟻の存在が働き蟻の意識の中から消えてしまったのだ。


元々いない存在に対しては命を賭して戦うなんて思うわけがない。だからあの時は、働き蟻の中での目的が消失してしまい生き延びることが出来た。


(予想を立てていたがいざ当たっているとなると気圧されるものだな)


 そしてアネットがあそこまで衰弱してしまっていた原因も一緒に分かった。輪廻追放の発動は、生命力も極限にまで消費する必要があった。


 だからアネットはあそこまで衰弱していたのだ。生命力までも魔力に変換していたから。


それならば生命力を魔力に変換する前に魔力を発散させてしまえば、もうあんな思いをさせることはなくなるのでは?


(僕がアネットの魔力を調整すれば、もう2度と悲劇が起きる事はないだろう)


「アネット、暴走する原因が分かったよ。どうやらアネットは魔力を定期的に発散する必要があるらしい。アネットが自分で扱える様になるまでは僕が調整する事が出来るけど、僕に任せてくれる?」


「うん!」


 何の躊躇いもなく返事をくれるアネットは非常に嬉しそうだ。しかし躊躇いなく答えることには少しばかりの心配を覚えた。


それでもアネットの様子を見てアキトには大きな喜びがこみ上げていた。


「ということでアネットは僕から離れる事が出来ないからね?」


「あっ、うん」


 先程の自分の発言を忘れさせるくらいアネットにとって嬉しいことだったようだ。


 それにどうもセツナも嬉しかったようだ。アネットに何度も身体を擦り寄せて喜びを身体で表現している。


「アネットもこれから一緒に居られるということで、これからのことなんだけど。僕たちはこの森から旅をしていくつもりだったんだけど、アネットはどうしたい? もし嫌ならここを拠点にして何か決めていこうと思うけど」


「ううん、私も旅したい!」


 何かを振り切った様に笑顔を向けて自分の意見を言ってくれるというのが、どうにも言えない嬉しさをアキトに与えてくれる。


「それじゃあ、出発の準備しようか。セツナもいい?」


「キュイ」

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