第10話真価……
アネットの事はセツナに任せて、アキトは1人無数の蟻の魔物と対峙した。
前に戦った時は鋏より頑強な外骨格に苦戦した。素の力だけの物理攻撃ではまず攻撃は届かない。守護霊で直接攻撃しても一緒。
今使えるようになっている能力の装備に付与、この2つを使えば攻撃は通るだろうが気力の消耗が激しくなり、直ぐに潰れてしまうだろう。3匹だけならすぐに使っても良いが今はそうもいかない。
アキトは色々考えた末、1つの結論に達した。
(今回は遠距離、且つ広範囲で倒していく必要がある)
蟻の魔物は無数の魔物と戦うことになってしまったアキトの準備を待ってなどくれない。
顎をガチガチと鳴らし、戦闘態勢に入りながら距離を詰めてくる。
(四の五の言ってはいられないな)
「セツナ、スキル使わせてもらうぞ」
アネットを守っているセツナに魔力共有の使用許可をもらう。
「キュイ」
セツナの元へ守護霊の左腕を飛ばして魔力共有を発動させる。
守護霊を介して伝わってくるセツナの持つ多様なスキルの情報。その中から最初に選んだのは「中級火魔法:
選択したスキルの力が左腕に流れこんでくる。そして魔力強化を併用しながら右腕でスキルを発動させた。
上空に掲げられた守護霊の右腕から巨大な炎の玉が出現する。本来直径3メートル程の炎の玉を出現させる魔法だが魔力強化のおかげでそれを遙かに凌駕する直径10メートル程の巨大な炎の玉になっている。
暗い森の中で赤々と光を放つ炎の玉はその場においてまさに太陽である。
蟻の魔物の外骨格に燃える美しい姿を映しているが、それはただ掲げるためにそこにあるのではない。
アキトが右手を強く握りこむ。それに連動する様に太陽はその巨体を小さく密集させていく。先程の半分程にまで小さくその身を纏めた太陽は輝きを一層強くさせた。
「独創上級魔法:
アキトは声と同時に手を振り下げる。すると太陽は身を震わせ耐えていたその身を爆散させた。
太陽は無数の小さな流星となって、蟻達に降り注ぐ。その威力は大地を抉りその跡を残す。
それに狙われた蟻の魔物は頑強な鎧の抵抗も空しく、着弾したそばから破壊されてしまう。胴を飛ばされ、脚を飛ばされ、頭も飛ばされていく。
一瞬で自身の命を刈り取ってしまう炎の雨の中、それでも敵への歩みを止めるものはいない。
目の前で殺された仲間の死体を乗り越え少しでも敵へと近づこうとする。
死への恐怖さえも超えた女王への忠誠心はアキトの恐怖心をさらに煽っていく。
たった1つの魔法で大量の敵を倒したというのにアキトの気持ちは少しも晴れない。
それもそのはず、殺した敵のすぐ後ろからまた新しい敵が現れるのだから。そしてさらにその後ろにも。
アキトを囲む黒き壁は押し返されるどころかさらに迫ってくる。
(やっぱりこれくらいでは気休めにもならないな。それでも手当たり次第倒すしか方法がないんだけど……)
この戦いが女王蟻のための戦いというのはアキトも理解している。
女王蟻を倒せばなんとかなるのでは? と考えもしだが、きっと状況はさらに悪化するだろうし、そもそもの話女王蟻の姿は見えない。
(なら女王蟻諸共殲滅し続けるまで)
認識の甘かった覚悟を自身の中で再構築する。
そして新たな魔法をセツナから引き出す。選択したスキルは「最上級水魔法」
以前ちらりと見えた勇者のステータス、その一部にもあった最上級魔法の内の1つ。その威力は上級魔法とは一線を画す、まさに最上級の威力である。
そして守護霊の能力によってその力は底上げされる。
引き出した水の最上級魔法は「
圧倒的な水量が龍を象り、まるで本当に生きているかのように対処を追い、飲み込み、その水圧によって圧死させる魔法である。
ただでさえ恐ろしい威力をもつその魔法を守護霊の魔力強化を通して発動させる。最上級魔法のさらに上を行く魔法。
(さながら超越魔法かな)
「独創超越魔法:
魔法を発動させる。
すると守護霊の右腕から果てしない量の水が天へと伸びていく。天へと駆けるその姿は遠目から見たら神秘的だろう。
しかし近くから見ればその感想は真逆に変わるだろう。巨木よりも太い胴を持ち、その姿は視界の中に収めることが出来ない。
とんでもない長さを持つ巨大な龍は、その身をさらに大きくさせながら天へと昇っていった。
龍は空を仰ぎ見られる程の大きな穴を雲に開ける。そして大きく身をよじらせこちらを覗いている。その姿はまさに神を冠するに値するだろう。
人が扱うには過剰な力だが、アキトはそれを守護霊を介して操っていく。龍の瞳が捉える獲物は眼下に群がる無数の蟻達。
空に顕現した龍に比べれば、蟻達は既に異世界特有の魔物というよりも地球で飴に群がるようなただの蟻である。
アキトが指示を出すと、その身を捩らせ蟻へと向かっていく。その巨大な体躯を地面に這わせるだけで小さな存在となった蟻は流され、潰され、その命を刈られていく。
その暴れ様はまさに天災と形容するにふさわしい。
しかし先ほどの炎の魔法とは違い、今回の魔法は継続的に魔力を消費して操っている。守護霊で魔力強化をしたからといって魔力の消費が大きくなるわけではないが、最上級魔法は元々魔力を大量に消費する。
セツナの魔力を考えても早急に龍との繋がりを断つ必要があった。
アキトはもう一度龍を上空へと昇らせ、洞穴の後方から蟻の魔物達に向かうように指示する。
そして後方からやってくる勢いを残したまま、アキトは龍との繋がりを断った。
その瞬間、龍を象ることをやめた膨大な量の水が、津波となって蟻に襲いかかる。
それはさながら大瀑布のようであった。
何万トンという量の水が森の中に押し寄せた。
アキトは自身を守るために最低限の水量をコントロールして様子を窺う。
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