第7話洞穴の奥に……

 持って行ける分以外の内臓、余ったモノはセツナに燃やしてもらう。皮のなめし方も知らないし他の部位の活用の仕方も知らない。


 寒くなってもセツナの羽毛に包まれてしまえば極上の空間で寝ることが出来る。唯一の憂慮は服の予備がないということくらいである。


 それでも水を操れば洗濯機と同じことが出来るし、乾燥も直ぐに出来る。


(まぁなんとかなるでしょ)


 この世界を生き抜くと決めたアキトには、そんなこと些細なことでしかない。幾度も不幸な目にあったアキトは、どこか吹っ切れてしまっていた。


 その後は特に何も起きない。


そして僅かな光も漏れてこなくなった時、2人は洞穴を見つけた。セツナも入ることが出来るその穴は結構の広さを持っていた。


2人は洞穴の中を適当に調べて、入口付近に火を起こすとその日はそのまま泊まることにした。


 暗く薄気味悪い洞穴の中でも毛玉に包まれれば即座に眠りにつけた。


 次の日、特にやることもないアキトは保存食作りに着手する。セツナを起こさないように荷物を漁る。


 前日に一応もらっておいた氷の魔法を開放して、もう一度ナイフを作った。今度は魔力強化をしていないので適当な大きさのナイフだ。


 切った肉を干すくらいしか保存方法を知らないアキトは直ぐに暇を持て余すことになった。


 その結果、徐に肉を取り出し焼き始めた。


 洞穴の中に肉の焼ける匂いが充満してきた頃、セツナが起きた。その後は2人でご飯を食べ、守護霊とセツナと一緒にくつろぎ始めた。


 風の魔法をもらって肉を乾かしたり、他の魔法で遊んだりそれなりに有意義な時間ではあった。


しかしのんびりとした雰囲気はセツナに二度寝を促し、それを見たアキトにも眠気の餌食へと変えてしまう。


 風魔法の音だけが洞穴の中に響いてやけに耳につく。


 一度気になり始めたがために、アキトは寝ることが出来ずにいた。


しかしアキトの耳は風魔法の音だけでなく、さらに違う音も拾った。


 最初はセツナの寝息かと思っていたが、セツナのものではない。


 かといって自分のものでもない。それは2人の後方から聞こえてくる音であった。


 入口付近に火は灯しているのだが、奥の方までは光が届いていない。少し怖くなったアキトはセツナを起こし、光魔法をもらって光の玉を筆頭に奥に進んでいく。


 光の玉は洞穴の壁にいろんな影を映した。様々な形をした岩や石。いちいち身体をびくつかせるアキトはセツナにしがみついている。


 光の玉が洞穴の奥まで照らすと、そこには蹲っているモノがいた。


 2人はそれに慎重に近づいていく。


 一応守護霊も配置して、いつでも戦えるように。


 近づいていくとだんだんその姿が明らかになっていった。


 肌は浅黒く、髪は銀髪で耳の形が特徴的である。しかしその尖った耳よりもさらに衝撃を受けたのは女の子がまだ幼く、小学生3年生くらいだということである。


 すぐ傍まで行き、守護霊でつついてみる。ピクリと反応したがそれ以外は何の反応もない。


 アキト達に反応を示すことは無かったが、少女は苦しそうにひどく浅い呼吸を繰り返していた。


「え、どうしよう。あの熊の回復魔法とっておけば良かったな。うーん……そうだ、セツナ回復魔法は使えないの?」


「キュイ」


 任せろ、と胸を張りながら返事をする。熊の魔石を食べたセツナは既に回復魔法も使えるのだ。


でも他の魔法も威力が弱かったし一応守護霊を使っておくことにした。


「それじゃあ回復魔法左手にかけてみて」


「キュイ」


 セツナが掛けてくれた回復魔法は守護霊の左手から吸収され、右手から少女に向けて開放される。


 今度はしっかりと魔力強化も使って。


 すると先ほどまで浅い呼吸を繰り返していたのに、普通の呼吸へと変化していった。


 一安心、って感じではあるけれど、まだ警戒を解くには早い。一応焼いたお肉と果実、そして水の球を浮かべて置いて様子を見ることにした。


「じゃあセツナは少女見ていて、僕は入り口の方見てるから」


 2人で前後、両方警戒しつつ干し肉の作成を再度試みる。


 しばらくするとセツナに呼ばれた。


 少女の目が覚めたらしい。


 少女は起き上がり、いくつもの果実を口に運んでいく。その姿は年相応と言えるが、まだ警戒は怠るわけにはいかない。


一通りの食事が終わったのでアキトは少女との交流を試みた。


「えっと、大丈夫?」


 しばらくの沈黙が続いた後、少女はぽつぽつと言葉を話し始めた。


「あ、あの、ありがとうございました。あの、あなたは?」


「僕はアキトでこっちの毛玉ちゃんはセツナ。まぁいろいろあったけど悪い人間ではないよ」


 客観的にみれば完全に不審者の言い分である。しかし少女はあくまで少女


「セツナ……可愛い」


 可愛いものには目がないようだ。


(巨大な毛玉だからね)


「キュイ」


 セツナも律儀に挨拶をする。


 するとセツナには警戒心が解けたのか毛玉をモフモフ堪能し始めた。


(わかるよ、その気持ち。セツナの毛の柔らかさは目を見張るものがあるからね。しっかりと堪能して)


 今度はもふもふのひとしきりの流れが終わったので、少女に詳しい話を聞くことにした。


 少女の名前はアネット。


アネットはエルフという種族の中のダークエルフと呼ばれる変異種なのだそうだ。


そしてダークエルフであるがために、アネットの人生は悲惨なものであった。

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