第2話  優しいハチドリ

 ハチドリは、風船たちを割っていた。


 恐ろしい。


 ずいぶん高くまで、舞い上がって来たので、いくぶん萎れている風船が、割られると、中から新しい風船が、飛び出す。


 飛び出した、風船は、白が多いが、なかには、ピンクやオレンジ色の風船もいる。


 白い風船たちは、そのまま、空を登って行く。


 他の色の風船たちは、途中で、フッと消えていく。


 ハチドリが、僕の方に飛んできた。


 怖い!


 僕は、身をよじって逃げようとしたが、もちろん風船の身では、叶わなかった。


「赤ですか。お気の毒に」


 ハチドリの声は、ずいぶん優しい。


 少しだけ落ち着いた。


「僕を割らないのですか?」


 ハチドリは、涙を流した。


「記憶まで、無くしているのね。ずいぶん、たいへんな事が、あったみたいね。残念ながら、あなたを割ることは、出来ないわ」


 泣いている。

 多分、僕のために。


「どうして、泣いているのですか?」


 ずいぶん素直に、言葉が出た。

 ハチドリは、優しいらしい。それだけは、分かった。


「あなたは、これから時計屋に運びます。失った時間を取り戻してください。あなたを割るのは、それからです」


 ハチドリは、虹色の飾り羽根を頭部から抜くと僕に渡した。

 僕は、風船なので、糸が、ぶらさがっている。

 ハチドリは、その糸で、飾り羽根をしっかり巻き付けた。


「これで、大丈夫。時計屋に、連れて行ってくれるわ」


「時計屋さんですか?行ったことありませんでしたが…」

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