豪商の屋敷の引越しの手伝い
とまあ、そんなこんなで<豪商の屋敷の引越しの手伝い>に向かった俺は、
「よろしくお願いしや~ッス!」
と、集まってる奴らに明るく挨拶した。他の連中も、俺と同じようにファズだったり、別口で派遣されてきた奴だったりと、要するにご同輩だな。
「ああ、こんにちは」
そんな風に返事をしてくれた奴もいたが、ほとんどは、
『なんだこいつ』
って感じ反応だった。
でもそっちはまあ別にいいんだ。向こうにしてもどうせこの場だけの関係だからな。無駄に気を遣いたくないんだろう。俺も、相手が望んでないのに強引に踏み込むつもりもない。それは別に目的じゃない。
俺の<目的>は、この屋敷の住人だ。
だが、『仕事前に』とはいかなかった。
「予定の人数が集まったのならすぐに始めてくれ」
屋敷の主人らしい、恰幅の良い、『いかにも成金』って感じのオッサンがそう命令してきた。
労働というものに対する諸々の感覚がまだまだカッチリ決まってない社会だからか、雇い主の側の気分や都合でホイホイと条件が変わることは珍しくない。本来、今回の仕事ももうちょっと後から始まるはずだったんだがな。
さりとてこれについても文句を言ったところで労働組合もなければ労働基準監督署もないこんな世界じゃ、力を持つ連中に握り潰されるだけだ。
じゃあどうするか?
それはもう、一にも二にも自分が力を持つ側に回るしかない。そしてそれは、<個人の努力>だけじゃどうにもならないんだよ。手っ取り早いのが力を持つ奴と親しくなることだ。そしてそいつを利用することだ。
つまり俺はそのために、豪商にお近付きになりたかったわけだ。
が、その豪商様は、命令だけ出すととっととどっかに行っちまって。
『ツいてねえ』
と思って、その場は切り替えて次の機会を待つことにしようと思ったんだが、
「ちょっとそこのあなた! 先に私の荷物運んでちょうだい!」
って感じできつく声をかけられた。
「はいはい、かしこまり~!」
俺は、嫌な顔ひとつせず満面の笑顔でそう応えて、その声の主の下に馳せ参じた。
それは、プラチナブロンドの髪に碧眼、いかにもお高い感じのドレスを身にまとって腕を組みふんぞりかえった典型的な<高慢ちきなお嬢様>という感じの女の子だった。
年齢としちゃあ、十三から十四ってところか。さぞかし親に甘やかされたんだろうなという、俺達みたいなのを心底見下してる小娘だったな。
しかし俺にとっちゃ<渡りに船>どころか、
『カモがネギ背負って現れた』
ってえ話だったよ。
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