冒険者ギルド

 そんなわけで俺は、冒険者ギルドに向かい、さっそく冒険者としての登録を行った。

 ランクは当然、最低の<ファズ>。ここから確実に依頼をこなしていけば、<エギ><ディナ><チェト><バル><アーシ>とランクが上がっていき、最高位は<スーラ>。

 さらにその上には<突破者>とも言われる<レスーラ>ってランクもあるらしいが、そんなものはほぼほぼ眉唾物と言われてるみたいで、少なくともボドルの冒険者ギルドには来たことがないようだ。

 だから俺もそんなものは目指さない。それに俺が冒険者になったのはあくまでギルドに届く仕事の依頼が目当てだし、加えて<冒険者票>という身分証明書を発行してもらうためでもある。これは、移動する際には必ず提示して自分の居場所を明らかにする代わりに、立ち入りが禁止されている地域を除けばだいたい何処へでも行けるという、便利なものだ。

 その一方で、『冒険者になる』というのは、

『すべてが自己責任になる』

 という意味でもあり、

『簡単に死なれたら困るから治癒魔術も受けられる』

 炭鉱夫とかと違って、マジで誰も助けちゃくれないからな。

 とにかく、何でもメリットとデメリットがあるということだ。


 で、炭鉱夫だったから治癒魔術も受けられたが、それを辞めるとなると治癒魔術の料金を払わなきゃいけなくなるってことで俺の手持ちはもうほぼなくなった。となるとまずは日銭を稼がなきゃいけねぇ。

 そんなわけで<ファズ>でも受けられる依頼を探す。しかし、何の実績もないファズが受けられる仕事なんざ、それこそ<派遣のバイト>と変わらない。

 引っ越し作業の手伝いか荷役作業か建築現場の手元作業か、まあそんなところだ。後はせいぜい、金持ちのペットの世話とかな。

『是非、金持ちとお近付きになりたいし、ペットの世話がありゃいいんだがなあ……』

 と考えたものの、さすがにそう上手くはいかないか。

 だが、<豪商の屋敷の引越し作業>という仕事があった。

『おし! これだ!』

 俺はとりもなおさずその依頼書を手にして、受付の姉ちゃんの所に持っていく。

 しかしなんでこういうところの受付は若い美人の姉ちゃんなんだろうな。まあ、そういう姉ちゃんに受け付けてもらって、

「頑張ってくださいね」

 と笑顔で送り出されたりすれば、確かに気分はいいけどよ。単純にそういうことなんだろう。

 実際、俺の隣では、そこそこベテランそうな冒険者らしきオッサンが、受け付けの姉ちゃんを前に、

「なあ、今度、食事にでも行こうぜ。美味い店知ってるんだ」

 とか、ベタベタのナンパをしてたりも。

 しかし、受付の姉ちゃんは、手慣れた様子で、

「七回生まれ変わってからおっしゃってくださいね」

 などと、満面の笑顔ながらすげえ毒舌であしらってたけどな。


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