Episode-Sub1-11 二度目の混浴は突然に

 ……なんだろう……頭にほんのりと温かみを感じる。


 それだけじゃない。いつまでも眠っていられそうなくらいの柔らかさも。


 確か俺はフレア様とシスターの三人で川にいたはず。


 なら、この温かさはなんだ……?


「あっ、おはよう、ルーガくん」


 聞きなれた声に瞼を開ければ、ドタプンと揺れる谷間からギリギリ見えるリオン団長の心配そうな表情。


 ただそれも一瞬で、視界が真っ暗になる。


 えっ、おっぱいアイマスク? 


 どうやらこちらを覗き込もうとした際に前かがみになったせいで、おっぱいが顔に押し付けられたのだろう。


 ドクドクと一気に下半身への血の巡りが良くなった気がする。


 健康に悩んでいる人にはぜひおすすめのセラピーだ。


「ふがっ!? もごもごっ」


 冗談はさておき、おっぱいに窒息しそうになった俺はトントンと団長の腰をトントンと叩く。


「あっ、ご、ごめんね! すぐにどかせるから!」


 幸いにも、すぐに気づいてくれたおかげで死は免れた。


 無事に解放された俺はこのままの体勢では話しにくいのでコロコロと膝枕から転がって……くっ!? なんだ……!? 団長の膝枕に吸い付けられる……!


 これがリオン団長の母性……? 成人した男の深層意識に眠る童心を蘇らせる彼女の本能……?


「ふふっ、よしよし。安静にしなくちゃダメだよ。一日寝込んでいたんだから」


「そうですか、一日も……えっ? 一日?」


「聖女様とシスターさんが心配していたから、あとで顔を見せてあげてね」


 そう団長が言って、ようやく倒れる寸前の記憶が蘇ってくる。


 そうだ。俺は2人のスーパーおっぱいに挟まれて……。


 ということは鼻血を出してから、ずっと倒れていたのか……。


「【加護】の代償が強かったのか、ただおっぱいの快楽に負けたのか……」


 おそらく前者だろう。いや、間違いなく前者だ。


 そもそも仕える者として【聖女】であるフレア様のお、お、おっぱいに欲情するなど……!


 今さらな気もするが、こういうのは気持ちが大切なんだ。


 まじめに考えるなら【黒鎧血装】を発動していないと【白光招来】は使えないのだろう。


 あと、おっぱいじゃなくて、俺を信じてくれる希望の気持ちが必要なのか。まだまだ謎は深まるばかりだ。


「ん? 何か言った?」


「いえ。それよりも団長……もしかして倒れている間、ずっと自分の面倒を?」


 尋ねると、リオン団長は困り顔でポリポリと頬をかく。


 視線もキョロキョロと忙しない。


「別に気にしないでね。そんな大したことしてないから」


「いえ、せっかくの休日を自分なんかのために使わせてしまってすみません……」


「大丈夫だよ。それに今は寝ているけどマドカちゃんと交代しながらだから、起きたらお礼言ってあげてね」


 マドカも……ありがたい。本当に俺は周囲の人に恵まれているな。


 ひとまずの事情がわかって安堵した俺は一息ついて、だらりと脱力する。


「ふふっ」


「団長? どうかしましたか?」


「なんだかルーガくんがリラックスしてくれているのがうれしくて」


 思わず気の抜けた姿をさらしてしまったことに気づいて、かぁと恥ずかしさがこみあげてきた。


 副団長としてなんともみっともない。


「……これは見なかったことに……」


「別に隠すことでもないよ。人間、誰だって四六時中格好よくあろうなんて無理なんだから」


「しかし……」


「それに嬉しいんだ。ルーガくんがそれくらい私に気を許してくれているんだって思えるから」


「団長……」


「そ、それに私はもっと、その、恥ずかしいところもみみみ見てるから……平気だよっ!?」


 声が裏返ってしまった団長はパタパタと手で扇ぐ。


 顔は真っ赤になっていた。


 かくいう俺もおそらく彼女と同じ表情をしている。


 さっきから気恥ずかしさで火照って仕方がなかった。


「じゃあ……すみません。もう少しだけこのままでもいいですか?」


 だけど、気分はいい。色んな痴態を晒した自分が拒否されていない事実がスッと心に染みた。


 ここのところ自分の立場や周囲からの期待に応えようと知らずのうちに肩ひじを張っていたのかもしれない。


 自覚すると己がどれだけ緊張していたのか、よくわかる。


 何も言わずにそっと頭を撫でてくれる団長の手が心地よかった。


「うんうん、いっぱい甘えてよ。またバブちゃんになる?」


「いえ、あれは血迷っていただけなので結構です」


「そっかぁ……」


 なぜか団長はショボンと寂しそうだった。


 ……えっ、返答間違えた? 


 ……バ、バブるか? 今なら誰もいない。恥をさらしても俺と団長だけの問題で済む。


 だ、だが、あれをもう一度するのは男としてのプライドが……くっ……! でも、正直俺にもうためらうほどのプライドが残っているかと問われると自信はない……!


 心の葛藤で悩んでいると、団長はなにか思いついたようでパンと手を叩いた。


「そうだっ。あのね、ルーガくん……実はまだルーガくんの身体って洗えてないんだよね。やっぱり勝手に脱がせることに抵抗あったから」


「ははっ、気にしなくてよかったのに」


「いや、気にはしなかったんだけど(マドカちゃんや聖女様と)争いになったというかなんというか……」


「あぁ、なるほど。すみません、気が回らず」


 きっと団長の脳内の天使と悪魔が争ったのだろう。


 裸を見てしまえば淫夢魔族としての欲望が出てきてしまうかもしれない。


 本能と理性が戦うのはよくあることだ。


「それで結局、魔法で乾燥させて、起きてから自分で洗ってもらおうって話になったんだ」


「なるほど」


「でも、ルーガくんは私に甘えたいよね?」


「……はい、甘えたいです」


 先ほどの選択ミスの反省を活かして、今度はすべてをゆだねる返答をする。


 見事に正解だったようでリオン団長はニコニコととてもうれしそうだ。


 俺はこの後に続く言葉をなんとなく察していた。


 それでも俺がこの道を選んだのはいわば感謝。彼女への恩を少しでも返すためならばためらいはない。


「だから、一緒にお風呂に入りましょう!」


 例え、その先に待ち受けるのが破滅だとしても……!


 こうして水着乳圧攻めを乗り越えた俺のVSおっぱいは第二ラウンドに突入した。

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