Episode3-43 後輩たちの挑戦

「リオン第六番団団長!」


 完全にバルルガンクの死亡を確認していた私のもとに隻眼の男性が駆け寄ってくる。


 確か彼は聖騎士養成学園のカルキア学園長だったかな……。


「お見事でした。噂に違わぬ実力のようで……」


「いいえ、ただ相性が良かっただけですよ。手ごわい相手には違いありませんでした」


 手数勝負になっていたらわからなかった。


 相手が力勝負を主としたバトルスタイルだったから、【幻影生命ダーク・ソウル】が刺さった形。


 また奴が私を舐めていたのも勝因の一つだろう。


 自分が上位者だと勘違いしていた。


 少なくとも同等の力があると見切っていれば、まだここで斬り合いが続いていたかもしれない。


 最期の【地墳閉空間ガイア・セメタリー】だって私をいつでも殺せると驕っていたから、回復を優先する選択を取った。


 実力が同等の者同士がぶつかり合えば、一つの思考・行動が勝敗に結び付く。


「……そう考えたら当然の結果だったかな」


「どうかされましたか?」


「いいえ。それよりも生徒さんたちの安全を確保しに行きましょう。まだ魔物が残っているかもしれません」


「私としては助かりますが……聖女様の救助に向かわなくてよろしいのですか?」


「ええ、そちらは私の自慢の部下たちに任せていますから」


 私はルーガくんたちに任せた。


 期待じゃない。達成を当然の結果として求めている。


 彼らにはそれだけの力がある。


 そして、きっと聖女様も一層強い想いを抱いているはずだ。


 なぜなら、私がルーガくんを見るのと同じ瞳をしていたから。


「……わかりました。アルディカはいい上司の下で働けているようですね」


「ええ、本当に一生懸命に聖騎士の使命を果たしてくれています」


「安心しました。余計なおせっかいですが、これからも聖騎士としての彼をよろしくお願いします」


「はい、末永くお世話するつもりです」


「そうですか……え? 末永く?」


「さぁ、行きましょう。忙しくなりますよ」


 袖をまくって気合を入れる。


 大丈夫。私はどっしりと構えて、学園内の問題をすべて処理しておく。


 ジャラクに関することだって、まだまだ山積みなのだ。


 疲れて帰ってきたのに、まだ仕事が残っていたら可哀想だしね。


 聖女様と一緒にみんな無事で帰ってきた時に、笑顔で迎えてあげられるように。


「……頑張ってね、みんな」


 この祈りがみんなに届きますように。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 どんどん背中からあの人の気配が遠ざかっていく。


 ルーガ先輩と行動を別にする選択をした。


 一気に自分の死を近くに感じる。


 ああ、さっきまで私は安心していたんだ。


 ルーガ先輩のそばにいれば自分を守ってくれると。


 なんて情けない。そんな気持ちでいたならば、当然役になど立てるはずがない。


 これは挑戦だ。


 マドカ・ルシャールの存在意義を賭けた挑戦。


「ミツリさん! 下へ!!」


「了解! こっちなら大丈夫だよ!」


 ミツリさんが降り立ったのはボロボロの屋根が目立つ廃墟。


 周囲に人の姿はない。


 暴れるにはうってつけの場所。


「てめぇらに用はねぇんだよぉぉぉ」


「残念ながら、私たちにはあなたを引き受ける約束があります」


 ブルルガンクが振るう斧をかがんで避けて、横を通り過ぎる。


 もちろん、このままルーガ先輩の後を追わせるつもりはない。


 私はミツリさんが待ち構える場所へと飛び降りると、奴の巨体へと向けて手を伸ばした。


「――【磁界:吸引マグネティック・ホール←ブルルガンク】!」


 腕に青白い光がまとい、ピタリとブルルガンクの動きが止まった。


 私の【加護】は【磁界マグネティック・ホール】。


 両腕を媒体として特殊な磁力を発揮させて、対象を引き寄せたり、反発させられる能力。


 当然、相手がどれだけの重量を誇っていようとも関係はない!


「うぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「なんだ、なんだ、なんだぁぁぁっ!?」


 脚が地面から離れ、ジタバタと宙で暴れるブルルガンクを廃墟めがけて放り投げる。


 そこには瞑想を終え、大会で見せた大技の構えをとったミツリさんがいる。


「先手必勝。一撃決殺。ボクの全力がどこまで通じるのか、試させてよ」


 解放された魔力。


 魔王軍幹部のブルルガンクに負けない圧。


 悟る。間違いなく今の実力で私は彼女に劣っている。


 いや、わかっていた。だからこそ、ミツリさんに初撃を託したのだ。


「いけっ、ミツリさん!」


「聖拳演舞――剛拳・砕打号砲」


 大きく胸元まで引かれた右腕。


 正拳突きは身体の動きすべてを連動させることによって破壊力をもたらす。


 大地を踏みしめる脚。


 回転力を腕へと伝える柔らかな腰。


 それらを逃さずにまっすぐ対象に伝える技術。


 魔力をまとった拳をねじりきった。


「うごっ……!?」


 耳をふさぎたくなるような破壊音と共にブルルガンクの巨体が後方へとはじけ飛ぶ。


 回転しながら吹き飛んだ奴は壁を破壊し、がれきの屑にまみれた。


「やりましたか!?」


「ううん、ちょっと手ごたえが浅かったからきっと――」


「うぜぇぇぇなぁぁぁぁ!!」


 がれきに埋もれていたブルルガンクがガラガラ声で叫びながら、立ち上がる。


「ほらね」


「……そう簡単にはいきませんか」


「うん、脂肪の厚さに邪魔されたね。体をよじってズラされたし、さすがは魔王軍幹部ってところかな」


 グッパッと手を開いたり閉じたりするミツリさん。


 あれほどの相手を前にして普段通りに堂々としている彼女はすごい。


 そんな姿を見せつけられたら……いやでもやる気が入るというものだ。


 私も負けていられない……!


「でも、ダメージはちゃんと入っているはず。油断せずに押し切ろう」


「ですね。次は私が奴を切って倒します」


「ダメ~。美味しい役はボクのものだから譲りません~」


「いいえ、私が倒してルーガ先輩に褒めてもらうんです。そのあといい感じの雰囲気になってヤります」


「はぁっ!? 先輩はボクのものなんですけど!?」


「――雑魚がゴチャゴチャとうるせぇんだよぉ……!」


 私たちの声をかき消す怒りの咆哮。


 青筋を浮かべたブルルガンク。


 殺気をまき散らす奴に正面切って構えをとった。




「必ずルーガ先輩との約束を果たす! 性なる夜のために!!」



「ボクのデビュー戦、華々しく飾らせてもらうよ! 先輩に一日中褒められ続けたい!」



「いてぇ思いさせやがって……邪魔をする奴らは全員ぶっ殺す!」 




【聖女近衛騎士】マドカ・ルシャール

         &

【聖騎士養成学園首席】ミツリ・ベルアーム


VS 【鬼族副首長】ブルルガルク

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