Episode3-23 もうパンパンです

 大きな盛り上がりを見せて、始まった【剣舞祭】。


 すでに午前の部が終了し、昼休憩の時間となっている。


 そして今、俺はシスターや聖女様と共に屋台を回っていた。


「すごい……これがわたあめなのですね。ふわふわで美味しいです」


 目を輝かせて、買ったわたあめにかぶりつく聖女様。


 見たことがない食べ物に興奮している様子は先ほどまで優雅にたたずんでいた姿からは想像できない。


 もちろん、万が一があってはならないため俺が毒見している。


 その際に直接かじってほしいなど聖女様から要望を受けたが、やはり徹底した危機意識を持っておられるのだろう。


 俺に限らず聖騎士候補生は毒への耐性を付ける訓練をしているので、率先して引き受けていた。


「ふふっ、とても甘くて……これは好物になってしまいそうですね」


 ペロリと唇を舐める聖女様。


 こういう姿を見ていると、とても年相応でかわいらしい。


「聖女様、ありがとうございます。私も同行させてくださって」


「あなたも私が選んだ大切な一人ですもの。気にしないで」


「聖女様……!」


 感激したシスターは聖女様の隣に並んで、どの屋台がどんな商品を出しているのか嬉々として説明しだす。


 聖女様はそれを笑顔で聞いていた。


 まるで仲のいい姉妹のようだ。


 二人の楽しげな様子にこちらまで癒される。


「シスターも遠慮せずにお好きなものを。高いものでもありませんし」


「ありがとうございます! ほら、ルーガさんも一緒に行きましょう!」


「そうですよ。せっかくの休憩なのですから肩の力は抜いてください」


 そう言って二人が俺の両腕を抱きかかえて、三人一列になる形で歩き出す。


 シスターは気持ちが高ぶって恥ずかしさが飛んでいるらしく、遠慮なしにシスター山脈を押し付けてくる。わたあめもびっくりの柔らかさだ。


 それ以上にとんでもないのが聖女様の聖なるおっぱいが、聖パイが腕に当たっているという事実……!


【聖女】様だぞ……!? 夢か? 緊張感とストレスと寝不足による幻覚じゃないのか……?


 だが、両腕が感じる柔らかみが間違いなく現実で起きているのだと教えてくれる。


 腕を挟み、下着で支えられた張りのある聖パイ。谷間はちょうど俺の腕のサイズとベストマッチ……!


 これが聖パイ……聖騎士団を束ねる者のおっぱい……。


 俺は誰も触れたことのないであろう領域にまで足を踏み入れている。


 例え、偶然の産物だとしても俺はこの世界で最も幸運に恵まれた男だと断言出来た。


 しかし、しかし、聖女様……!


 これでは肩の力を抜くどころか、別のとこもヌく必要性があります……!


「どうかしましたか?」


「いえ、大丈夫です! あっ、シスター。焼き鳥を買うなら、マドカとミツリの分も注文してもらっていいですか?」


「ふぁかりまひた!」


「あんなに美味しそうに食べているのを見ると、どんどんお腹が空いてきちゃいますね」


「では、たくさん種類を買ってみんなで分けて食べましょうか。学園長に別室を手配してもらいましょう」


「ええ。食事は大人数でする方が楽しいですから」


 ミツリとマドカは留守中に変な輩が細工をしないように観覧室で見張りを続けてくれている。


 俺たちが屋台巡りをできているのは二人のおかげだ。


「たくさん買ってきました!」


 タレが絡められた焼き鳥がまとめられた袋を手に提げて戻ってくるシスター。


 その口には先に食べていた焼き鳥のタレが付いていた。


 一番年上の彼女の子供のような無邪気な姿に俺と聖女様は思わず破顔し、他の屋台も攻略していくのであった。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 途中に楽しい時間を挟んだ一日目が無事に終了。


 観客がいなくなってから宿へと戻ってきた俺たち一行――ミツリは学園長との約束通り、帰した――は全員そろって談笑していた。


 こうして少しでも緊張を和らげる時間はとても大切である。


 話題は主に屋台飯が続き、自然と今日の試合結果へと移った。


「どうでしたか、私の騎士。今日の戦いで気になる子は?」


「全員が全力をぶつけ合っていました。明日からも白熱した試合を楽しめると思います」


「私も同意見です。予選の間は手に汗握る試合展開が続きそうですね」


 聖女様の言う通り、予選は観客も応援のし甲斐がある試合になるだろう。


 しかし、それは言外に本選は一方的になるとにおわせているということ。


 はっきりと言おう。


 今年ジャイアント・キリングはない。


 他の成績優秀者の実力はどんなものか知らないが、ミツリと戦うことになれば一瞬で試合は片が付く。


 一般候補生の努力が一ならば、彼女は十の努力をする人間だ。


 あんな可愛いなりで超が付くほどの武闘派。さらに負けず嫌いというおまけつき。

 ミツリは俺をずっと追いかけていた。


 きっとそれは俺が聖騎士隊に入隊してからも続いていたはず。


 ならば、彼女が負ける道理がない。


 むしろ、今年の【剣舞祭】は彼女にとって負けてはならない戦いともいえるな。


 そして、その気持ちは俺にはよくわかる。


「ふふっ。それでは今日も一緒に寝ましょうか、私の騎士」


「ちゃんと私がお守りしますね。安心してください、ルーガさんっ」


「今日は暑いからいつもより薄着にならなければ……もちろん他意はありませんよ、ルーガ先輩?」


 今夜も聖騎士人生を賭けた負けられない戦いが始まる――!

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