Episode3-22 開会宣言(※ご報告あり)
競技場は普段から候補生たちの練習に使われる本格的な実戦用の施設だ。
面積は子供が使うには立派すぎるほど広大で、より生徒たちがいかんなく実力を発揮できるようになっている。
その外周に沿って何段も作られた観客席は全て埋まっており、「まだかまだか」と人々の熱狂がこちらまで伝わってくるほど。
カルキア学園長といったん分かれた俺たちは、その観客席の特別部分――観覧室に移動していた。
選手たちの入場口の真上に用意された特別な個室で競技場の全体がよく見える。
ここはもとより聖女様――例年通りなら剣聖様もいる――など聖騎士隊において特別待遇される人物が使用する前提で設計されている。
外からの襲撃に備え、壁も、ガラスも特殊なものを使用。完璧な防犯対策を施されている。
入り口には俺たち以外の聖騎士が配備されており、厳重な警備体制を敷いていた。
本日は第三番団が担当しているので、おそらく彼らも役目をはたしていることだろう。
心まで聖騎士であるならば、聖女様の役に立てる任務ができて狂喜乱舞していてもおかしくないくらいだ。
室内に置かれた二つの椅子のうち、右側に座ると俺とマドカはその左右につく。
シスターは部屋の片隅……なるべく外から見えない位置に立ってもらっている。
ミツリは特別扱いされているのが生徒にバレては余計な不満を買ってしまうので、椅子の背もたれに隠れるように座っていた。
よって、そのまま入り口側を注視してもらっている。
「聖女様。改めてご気分に変化はありませんか?」
「ええ、調子に変わりはありません。……今年もすごい数のお客様が来ていらっしゃいますね」
「中には候補生のファンクラブもできるくらいですから。それほどみなさんも楽しみにしているのでしょう」
「そうですね。きっとみなさんは伝説が生まれる瞬間に立ち会いたいのです」
「伝説、ですか?」
「他人事のように言っていますが、あなたもですよ、ルーガ副団長。昨年はあなたという伝説が生まれた。だから、今年はより候補生たちに期待がかけられているでしょう」
伝説。伝説か……。
自分は過去の【剣聖】様たちと肩を並べられるほど実績もない。まだまだ精進あるのみ。
そう思っていたから、聖女様にこうして褒められるとは……とても光栄だ。
「だって、あの第六番団に配属されてまだ現役で頑張っているじゃないですか。十分に伝説です」
まったくもって光栄じゃなかった。
あぁ、そっちか……! そっちだったかぁ……!
思い上がりも甚だしい。
こみあげる恥ずかしさを表に出さないように笑顔を貼り付ける。
「ふふっ、冗談ですよ、私の騎士。あなたは十分にやってくれています。きっと将来は伝説になっていると【
クスクスと笑いながら、聖女様はフォローしてくださる。
年齢は俺とほとんど変わらないはずなのに、こんなにも精神的に余裕が違うのは生まれの差か。
とにもかくにも聖女様がリラックスされているのがわかったから、よしとしよう。
うん、それがいちばん良い。
「聖女様。そろそろ出番が来ると思われます。カルキア学園長の挨拶が始まりました」
「わかりました。ありがとう、マドカ団員」
マドカが声をかけると、聖女様はいつもの微笑みを浮かべて正面を向く。
「……ところで、聖女様。外から観覧室の様子は簡単にうかがえます。あまりルーガ先輩と親しくしていますと変な勘繰りをされる可能性もあります。この場では控えた方がよろしいかと」
「それはボクも賛成。ここから見てたら、なんかすごい良い雰囲気だったし聖女様も立場的にあんまりよろしくないんじゃないですか~?」
「お二人とも心配してくださってありがとうございます。ですが、何ら問題はありません。私の騎士の実力はすでに知れ渡っていますから、贔屓で選んだとは思われませんよ。……もっとも、他の解釈で受け取られても私は構いませんけど」
「……それは余計な進言、失礼しました」
「そうですか~……へぇ」
「ひぃっ!?」
うんうん、マドカもだんだんと聖騎士の上に立つ人間として土台ができてきて嬉しいぞ。
聖女様の評判を下げることは避けるべきだからな。
そういった可能性に気づけるようになっただけで、俺は鼻が高い。
ミツリもこれなら入団してすぐに俺たちの補佐を任せられそうだ。
「二人とも、いい判断だ。これからもその調子で頼むぞ」
「きっとルーガ先輩は何もわかっていませんよ」
「先輩はちゃんと聖女様の安全にだけ気を遣っていてくださいね?」
後輩たちが手厳しい。目もなんだか怖い。
早くもホームシックならぬ団長シックになってきた。
なんだかんだ団長はどんな俺でもニコニコと受け入れてくれるので、安心できる。
……浸っている場合じゃないな。
ミツリに言われた通り、俺は俺の仕事を果たすのみ。
気が付けば、カルキア学園長の話も終盤に入っていた。
「そして、今年度も聖女様がご観覧してくださっている!」
カルキア学園長の紹介で、候補生、来客たちから一気にこちらに視線が向けられた。
注目を集める中、聖女様はゆっくりと立ち上がると民衆へ手を振る。
聖女様の微笑みは勇気を与え、より空気が熱くなった。
熱狂がヒリヒリとガラスを越えて、こちらまで響き渡る。
「聖女様の隣にいるのはお前たちも知っているだろう……昨年の優勝者のルーガ・アルディカだ。奴はすでに魔王軍幹部を討伐し、【聖女近衛騎士】として聖女様の信を享受する立場にまで上り詰めている!」
何を言っているんだ、あのおっさん。
矛先を俺に向けないでくれ。
……こんなにも注目を浴びてしまっては仕方ないか。
「しばしの無礼をお許しください、聖女様」
「構いません。応えて差し上げなさい、私に選ばれた騎士として」
俺は腰に差した剣を抜くと、二、三振りほど剣をはらって再び鞘へと納める。
しかし、彼らのほとんどはその剣筋を全て見切れなかったはずだ。
それくらいの速度で抜刀し、実力差を見せつけるパフォーマンスをした。
お前たちも優勝して、この域にまで到達してみせろと挑発するように。
そして、俺のメッセージはしっかりと届いたようで、候補生たちの瞳にやる気が盛んに燃えている。
「誰にでもチャンスがある。実力がすべてだ。この四年間の集大成を発揮して、今ここにいる全員の記憶に刻み付けろ。聖騎士になる者として、正々堂々と戦え!
――只今より聖騎士養成学園の伝統行事【剣舞祭】を開催する!!」
候補生たちも、観客たちも焚きつけたカルキア学園長は挨拶の最後を締めくくるようにそう宣言した。
◇ご報告◇
このたび『聖騎士になったけど団長のおっぱいが凄すぎて心が清められない』の書籍化が決定いたしました……!
詳細につきましては近況ノートに書いています(最下部にリンクあり)ので、そちらをご確認ください。団長の表紙も公開されていますよ!
本当にみなさま応援ありがとうございます!
普段、あまりこういうお願いはしないのですが、もしよろしければ☆や♡、コメントでお祝いしていただけると嬉しいです!
そして、予約始まっているのでお気に入りの通販サイトから、予約していただけると大喜びしますので、よろしくお願いいたします。
https://kakuyomu.jp/users/kinome_mogumogu/news/16816700427186664182
これからも面白く、楽しい『団長のおっぱい』を書けるように努力いたしますので、今後とも応援よろしくお願いいたします!
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