Episode3-2 飲みすぎ注意報
仕事を終えた俺たちは夕陽が照らす街に繰り出した。
団長のお気に入りの店や下着専門店まで巡って外食を済ませ、帰宅してきたのは月が昇っていたころだった。
「いやぁ、いい買い物ができましたね、団長」
「ウン、ソウダネ……」
「それではお疲れ様です。ゆっくり休んでくださいね」
「バイバーイ……」
大きく膨れ上がった紙袋を抱え、俺たちはそれぞれの部屋に戻る。
部屋に戻ると思わずニヤケてしまった。
お出かけ中の自分の成果に自信があったからだ。
「うん……なかなかいいアピールになったんじゃないか……?」
突然訪れた危機の数々を思い返す。
『ルーガくん。よかったら胸周りのサイズを測ってほしいなぁ、なんて』
『わかりました。女性の店員さんを呼んできます』
『えっ、ちょっ、ルーガくーん!?』
団長の素肌を見ないように配慮もできたし。
『ルーガくん。ついでにブラジャーとか見ていってもいい? それとも気になったりとかしちゃうかな?』
『いえ、お気になさらず。店内くらいでしたら眼を閉じながら歩けますので』
『心眼!? え、えっと、よかったらルーガくんのアドバイスとかも欲しかったり……』
『男の自分よりも店員さんの方が的確だと思います。それに団長ほどの女性なら、きっとどんなものでもお似合いになると思いますよ』
『そ、そっか。ありがと……って、ルーガくん? 店員さんは呼ばなくても……』
『団長、呼んできました』
『どうも、店員です』
『あっ、はい。よろしくお願いします……』
下着店でも色目を使わずに誠実に対応できた。
これはかなり団長の信頼度を回復できたんじゃないかと思う。
「よし、この調子で団長ともっともっと清く正しいお付き合いをしていくぞ……!」
新たな決意を胸に刻み込むのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なんで……なんで手を出してこないの……?」
おかしい……こんなことは許されない。
幸せの絶頂が訪れたというのに、それは早くも崩れ去ろうとしている。
大好きな……それこそ愛してると言っても過言ではないルーガくんと深い関係になれた。
身体を許してくれるんだからルーガくんも私を嫌いではないはず。
むしろ、両想いに近い手ごたえを感じていた。
そう考えたら毎日が楽しくて、恋ってこんなに素晴らしいものなんだと思っていたのに……。
「うぅ……どうして……?」
ルーガくんを誘っても、誘っても乗ってこない。
せっかくシスターさんに背中を押してもらったのに……。
「ううん、ダメよ、リオン。弱気になるんじゃなくて攻めないと」
ルーガくんを慕う子は多い。
最近は魔王軍の幹部を討伐した噂が広まって、一般市民の人たちにも周知され始めている。
それでなくても元々真面目で担当地域の人たちから評判がいいのだ。
団長という近い立場にあるから、私は今の関係を築けているだけ。
数か月後には違う女の子が隣に立っているかもしれない。
だって、ルーガくんは【剣聖】を目指していて間違いなく団長クラスの人間になる。
そしたら第六番団から離れなければならないから……。
「……よし」
私は即座にパジャマへ着替える。
「あ、あと、今日買った勝負下着……!」
押してダメでも押し続ける。本当の恋愛に引くの余裕はないのだ。
手に度数の高いワイン瓶を持ってルーガくんの部屋に押し入った。
「ルーガくん! よかったら晩酌に付き合ってよ!」
視界に飛び込んできたのはパンツ一丁のルーガくん。
お互いに動きが止まり、視線がかち合う。
「だ、団長!? すみません、お見苦しいところを……!」
「気にしていないから大丈夫! グラスとか準備しておくね!」
「は、はい……」
いそいそと着替えを再開するルーガくん。
ふふっ、成長した私を見くびってもらっては困る。
ルーガくんでかなりの場数を踏んできた。
今さら下着一枚で動揺するほど生娘でもないのだ。
それにしても……。
「……ゴクリ」
チラリと割れた腹筋へと目を向ける。
ルーガくんの身体は一部の民からすれば犯罪級だ。
あんなに素直で可愛くて、爽やかな見た目からどんな生活をすれば聖騎士としての一面が覗けるボディに仕上がるのか。
あぁ、触ってみたい……正直に言ったら怒られるかな。
「団長? どうかしましたか?」
「ううん、なんでもないよ。急に押しかけてごめんね。なんだか飲みたい気分になっちゃって」
「気にしないでください。つまみとか作りましょうか」
「いらないから座ってて。ほら……えいっ!」
私は立ち上がろうとするルーガくんの手を掴んで自分の隣に引き寄せる。
「だ、団長!?」
「んー? なにー?」
「も、もしかして酔ってますか?」
「そんなわけないよ。まだほとんど飲んでないもん」
ルーガくんがそんな質問をするのは私が彼の腕に抱きついているからだろう。
自分の武器は存分に使わなければならない。
ルーガくんがおっぱい大好きなのは知ってるんだから。
このままお酒を飲ませて管理の流れに誘う。
ふふふっ、完璧な作戦……。
「そういえば店では俺の方が飲んでましたね」
「あんまり普段飲む種類がなかったから」
もちろん嘘である。
この時からすでに勝負は隊舎で行うと決めていた。
さりげなくルーガくんに店でお酒を勧め、判断力を失わせる。
さらにこの持ち込み酒で最後の一押しをする。
「ほらほら、飲んで飲んで」
「ありがたくいただきます」
彼は私に言われるがまま、どんどんワインを飲んでいく。
彼もまだ学園を卒業したばかりで、そんなに強くないはず。
「うーん、美味しい。この種類ってなかなかお店でおいてるところ少ないんだよね」
「でしたら、次は団長のおすすめの店に行きませんか。さらにその次は俺のおすすめ……なんてどうでしょう?」
「うん、そうしよっか」
「…………」
「ルーガくん?」
なんだか私を見つめるルーガくんの視線が熱い。
もしかして、もうそういう展開になるのだろうか。
私としてはいつでも来いの状態なので準備万端だ。
彼はグイっと一気にグラスの中身を飲み干すと、ぎゅっと私の手を握りしめた。
「……やはり団長は自分といる時間は楽しくなかったでしょうか?」
「えっ?」
「すみません……できない男で……」
そんなことない。
確かにルーガくんからのお誘いを期待していなかったわけじゃないけど、お出かけは楽しかった。
ルーガくんはなにか勘違いをしている。
それを訂正しようと口を開く前にルーガくんが言葉を被せる。
「俺は……リオン団長のこと尊敬しています」
「…………」
「すごく優しくて、とてもきれいで、強く清い心も兼ね備えている。聖騎士の鑑のような人だと思っています」
……ごめんね、ルーガくん。
私、そんな褒められるような人間じゃないの……!
今も酔わせてエッチな雰囲気に持ち込めたらいいなぁとか思ってるダメ上司なの……!
「だから、自分もリオン団長に見合うような誠実な男でありたい。なのに……」
悔しそうにルーガくんは自分の膝を叩く。
「団長のおっぱいばかり考えちゃって……! そんな欲望にまみれた人間なんです!」
いいんだよ、ルーガくん!
今はその欲望に溺れちゃって大丈夫! むしろ、あふれる若さを私にぶつけて!!
めちゃくちゃキュンキュンきてるから受け入れ準備万端だよ!?
「だからっ、ひくっ……俺は、我慢して……団長にふさわ、しぃ……」
「ル、ルーガくん?」
こてんと糸切れたマリオネットのように彼は私の膝へと倒れこむ。
幼い顔は真っ赤に染まり、瞼は閉じられていた。
「…………すぅ」
「……寝ちゃった?」
私は天を仰ぐ。
や、やりすぎちゃった……!
もう、私のバカ! 加減を知らずに飲ませすぎたせいでルーガくんにまで迷惑かけちゃうなんて……やっぱりダメダメだと、私も……。
「さ、さすがに寝込みを襲うのは違うよね……」
それだと私が毛嫌いする男たちと同じ場所まで落ちてしまう。
つまり、私は目の前に餌をぶら下げられた状態で、「待て」を続けなければならない。
これは辛いなぁ……ルーガくんの気持ちが少し理解できた気がする。
「……すぅ……すぅ……」
「……ふふっ、可愛い」
だけど、この無邪気な寝顔を見れたから良しとしようか。
管理できなかったのは残念だけど、これからもチャンスはあるわけだし。
なんなら毎晩聞いてあげよう。うん、それがいい。
ルーガくんの辛さがわかったからこそ、私から行動を起こしてあげるべきだ。
……それに。
「……いつまでも待たせちゃいやだからね、ルーガくん」
ツンツンと頬を突く。
嬉しいことも言ってくれたから、今回はこれでチャラ……いや。最後にいたずらだけしちゃおうかな。
私は眠っている彼を起こさないようにベッドに運ぶと、見せる予定だったモノを見せるべく服を脱いだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
んんっ……頭が痛い。
ズキズキと響くような鈍い痛み。
なのに、柔らかい何かに包まれている感触もあって、頭が混乱している。
「いったい何が……」
起き上がると下着しか着けていないリオン団長が隣で寝ていた。
豊満なおっぱいを恥じることなく出しているリオン団長が隣で寝ていた。
「……ふぅ」
誰か、俺を助けてくれー!!
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