第12話 さよならメモリーズ その3 (涼宮晴美編)

 つまり、意識を保っていることですら【ギリギリ】の状況でもあったりする。


 俺は、そんなほぼ原液ーーいや、ほぼあの粉の凄まじく苦いコーヒーを飲む。


 このクソマズいコーヒーのおかげで俺は、意識を保っていられる。


「先輩? それ、コーヒーですよね? 良かったら、晴美にもーー」

「ダメだ!!」


 しまった! 思わず怒鳴ってしまった。


 晴美ちゃんを横目で確認すると、驚いた表情で固まり俺を見つめていた。


「えっと……」


 マズい、言葉が出て来ない……


えぇい!! 俺のポンコツ脳め! 今だけ、今だけでいい!! フル回転してくれ頼むから!!


 ……ダメだ、眠気と怠さと吐き気でまったく思考が働かない。


 まぁ、こんな時に星奈さんが休みというのはある意味ラッーー


「おっはよ~ごめんなさ〜い二人とも、遅くなっちゃった」


 そんな俺の気持ちを感じとったのか、星奈さんが満面の笑みで入ってくる。


 マズい……。


 今の俺を見て、星奈さんが大人しくしているとは考えずらい……っくそ、なのに、何も考えられない。


 現在の俺の思考能力は、五歳児以下だ。


「どうしたの? 二人とも? おかしな顔して」


 んっ? 二人? 晴美ちゃんも? 何故?


「たっだいま~」


 マズいぃぃ!! 最悪のタイミングで、最悪の人間が戻ってきた。


 こういう時、直が話に加わるとろくなことがーー。


「あのっ!! 晴美、今日は帰ります!!」


 ガタッと大きな音をたて、晴美ちゃんが生徒会室を足早に出て行く。


 ……なんだ、直も星奈さんも揃ってそんな目を俺に向けて……俺にどうしろとーー。


 しかも、直はまるで俺を軽蔑するようにーー。


 ……待てよ……俺は、この直の表情を前に、どこかで見た気がする……なのに、どうしてだ? 思い出せない……まるで【霧】がかかったようにもやもやと……。


 そんな、俺の表情を読みとったのか、直が即座に表情を戻す。


 直は、しきりに俺に【絶対に裏切らない】と言う言葉を、強調してくる……。


 何故だ? 俺が直に逆らうことなんて……待てよ? 確か……昔、俺は……。


「いいの? 晴美ちゃん」


 星奈さんのその一言で、俺の思考はその場に戻される。


「えっ!」


「だって、あなた薫でしょ?」


 何、当たり前のこと言っているんだ? だが、この台詞も昔、どこかで……何故だ? なんで、ここ数年のことがまったく思い出せない。


「だぁぁぁぁぁくっそ!!」


 俺は考えるのを止め、晴美ちゃんを追いかけるため、生徒会室を飛び出した。

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