第11話 さよならメモリーズ その2 (涼宮晴美編)

 いかん、いかーん!!!!!!


 まさかの晴美ちゃんからの不意打ちに、どうやら自分自身のコントロールができていなーい!!!


「……はっ、晴美ちゃん、さっき何て言ったのかな?」


 スマイル、笑顔だよ俺!!


「あっ、、あのっぉ……」


 んっ? 晴美ちゃんが、震えている? 


 おかしいなぁ……ちゃんと笑顔にーーなってなかったぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!


 晴美ちゃんが恐る恐る差し出した鏡を見ると口元を無理やり上げ、血走った目をした俺がそこに映っていた。


 こっわ! えっ? 何これ、自分でも怖いんですけどぉぉぉ!!


「あ~……その、ゴメンね。晴美ちゃん」

「いえ、えっと、、だっ、大丈夫です!」


 晴美ちゃんが小さくガッツポーズを取る。可愛い。


「んで? その、狼って誰から聞いたの?」

「神楽坂先輩です!!」


 また、余計な事を!!!


「先、、輩?」


 晴美ちゃんの目がまた少し潤んだため、握っていた拳を緩め俺は、出来る限りの自然体な笑顔を作る。


「晴美ちゃん」

「はい!!」


 妙に緊張した顔で、俺を見る晴美ちゃん。そんな晴美ちゃんの肩に俺は優しく手を置いた。


「それはね……事実、だよ」


 晴美ちゃんが一瞬で俺の手を振り解き、距離をとる。


「……」


 俺は短く息を吐き、立ち上がり、晴美ちゃんの方へと歩いていく。


「こ、来ないでください!!」


 うわぁ……覚悟はしていたけど、実際に言われるとけっこう、堪えるなぁ……マジで……。


 だが、そんな晴美ちゃんの言葉を無視して、俺は更に前進する。


 晴美ちゃんは恐怖からか、既に人の言葉ではない奇声を叫んでいたが、気にせず更に晴美ちゃんの方へ向かっていき、晴美ちゃんの肩を優しく抱く。


「でも、俺は違うよ。俺は狼じゃなくて、ただの羊だから」

 

 そう言って最高決め顔とスマイルを向ける。


        決まった!!


「いっ、嫌ぁぁぁぁぁ!!!!」


 決まってなかった。


 俺の怖すぎるがんぎまりスマイルを見て、晴美ちゃんが絶叫している。


 どうする? どうする? 何か、何か、何かないか……そうだ!!


 俺は、机から可愛らしいマスコット人形を二つ取り出し晴美ちゃんの目の前に差し出す。


 泣きっぱなしだった晴美ちゃんも、この可愛らしいマスコットを見ると、泣くのが止まり、興味を示しているようだった。


「……やっ、やー! 僕は、山羊のやぎぞう、そして俺は狼のかみすけだ!!」


 もう何度目になるはずなのに、いまだにこの羞恥には耐えられない。恥を忍び、誰も食いつかないような人形遊びを始める。


「わくわく」


 何度やって、晴美ちゃんはこうやって目を輝かせてわくわくしている。


 よっしっ!! この表情が見れたのならこんな羞恥心などいくらでも耐えてやる!


「なぁ、かみすけ?」

「なんだ? やぎぞう?」

「なんで、僕と君は同じ男なのに君はそんなに怖がられてるんだい?」

「それはな、やぎぞう。男ってのは、お前みたいに優しいだけじゃだめなんだよ!!」

「どうしてさ?」

「何かあったとき、大事なものを守れなねぇだろうが!!」

「あーなるほどね!」

「けどな、男ってのは普段はお前みたいな方が良いんだ。ただ、いざとなったときは俺みたいに強くもなきゃならねぇわかったか? やぎぞう」

「うん、わかったよ! かみすけ」


 相変わらずまったく面白くないこの話を聞いて、納得してくれたようで、もう俺に怯えているよう様子は感じなかった。


 それを確認し、机にマスコットをしまうと、自分用のコーヒーをいれる。


 もちろん一緒に、晴美ちゃん用のココアも作り手渡す。


「ありがとうございます。先輩」


 晴美ちゃんは、俺に向けて一つ笑みをこぼした。


 そんな笑顔を見てほっとし、コーヒーを一口飲む。

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