第8話 ツンデレとヤンデレ その6
「はい! そこまで」
今まで黙っていた星奈さんがみんなに向けて静止をかける。
俺は、その声を聞いてほっと胸を撫で下ろす。
「それ以上やったらさすがにやりすぎよ。直もそろそろ満足したんじゃない?」
「まっ、少し物足りない感もあるが、まぁ、いいだろう。今日は、ここまでにしておこう」
星奈さんがその言葉を聞き、指を《パチン》と鳴らす。
その合図をきっかけに全員での片付けを始まる。
5人で力を合わせ、片付けも数分で終わり、見慣れた、いつもの生徒会室の姿になる。
一つため息をつき、俺は自分の席に座る。
「清美、晴美ちゃん、二人とも相変わらず良い演技だったわ。あっ、井上君もお疲れ様、良かったわよ」
「恐縮です」
今回は、たしかにいつも以上に二人とも役に入りこんでいたし、このまま続けていれば、俺も本当に怪我をしていたかもしれない。
何事もなく無事な右足を見て、安堵の息を吐く。
「ですけど、ヤンデレって思った以上に難しいんですね……」
「それに、典型的なツンデレ? だっけ、そういうの直のが向いてたんじゃないの?」
「何を言っている清美、私が演技とはいえ薫に恋するなんて、有り得ないだろ?」
言ってくれるよな……でも、たしかに以前とは変わっている。
そう、いい方向に、な。
「だが……感謝はしてるぞ、薫」
「なっ……」
直が、俺に抱きつく。こういうところは【昔から変わっていない】直は俺に対して【異性としての好意は一切持っていない】
つまり【恋愛感情】はない。
ただ、直は昔からこうやって俺に感謝を示す意味で【抱きついてくる】それが人によっては【勘違い】の【原因】になることも少なくはないのだが。
「あっ、会長さん!!!」
「薫、あんた、またぁぁぁ!!」
「うわぁっ! ちょっと!! 二人と……うぷっ」
「あらあら、人気者は大変ね。井上君」
そうこれが俺たち【蒼海学園生徒会】ときどき【演劇部もどき】のような活動は今日も積極的に行われている。
「いい加減、離れなさいよ!! 直」
「そうですよ!! 会長!! 離れてください!!」
「ちょっ、いたたたた!!」
俺の両腕がギリギリバッツーンって体から引き剥がされそうな状況を見て、直が小さく笑っている。
俺は、直のその笑顔に、気づかれないように笑みを浮かべた。
「あらあら……」
そんなもみくちゃな俺を少し離れて見ていた星奈さんが笑みをこぼす。
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