嘘つきは泥棒の始まり

『嘘も方便』という言葉がある。


物事を円滑に進めるためには時として嘘をつく必要があるという言葉だが、それは人間関係にも言えることだ。


私はこの嘘も方便を毎日使っている。


「〇〇君、この仕事を今日中に頼めるかな?」


今日も職場の上司が聞いてきた。


「はい、大丈夫ですよ」


そして私はまた自分に嘘をついた。


仕事を終わらすこと自体は可能だが、私の体は毎日の残業でとうに疲れ切っていた。


だから『すいません、明日でいいですか?』と答える必要があったのに、私にはその勇気がなかった。


勇気がなかったから、『まだやれる』と自分に嘘をついて仕事を終わらした。



しかし、いくら私がまだやれる思っても、私の体は限界だったようだ。


会社から帰宅している途中、私は激しい目眩に襲われた。


そういえば、ここ数日間まともなものをなにも食べていなかったっけ。


そう思い、私はとりあえず帰り道にあるコンビニで何か食べ物を買うことにした。


目眩のせいでボーっとしながらも商品を取り、店を出た。


そして家に帰って食べ終わった時、私はあることに気づいた。



もしかして私、お金を払っていない?


私は自分がレジでお金を払った姿を思い浮かべることが出来なかった。


ああ、私はなんてことを!


いくら意識が朦朧としていたからといって、私がしたことは窃盗という犯罪だ。



どうしよう


この言葉だけが私の頭の中で渦巻いていた。


素直に警察に行くべきなのは分かっている。


しかし、私にはそんな勇気などなく、『きっと大丈夫』と自分に嘘をついて眠りにつくことしかできなかった。


翌日、私は何事もなく仕事を終え、帰路についた。


幸いと言ったら問題があるだろうが私の窃盗はバレなかったようだ。


だからあの店には悪いがもう昨日のことは忘れて、いつも通りの生活を送ろうとした。



けれど、私の中である感情が蠢いていた。



もう一度盗んだらどうなるのだろうか



なんとも罪深いことに、窃盗をしてしまった昨日の夜、私は罪を犯したという後悔と共に言いようもない高揚感を抱いていたのである。


日々仕事に追われ、娯楽をする時間などなかった私には、窃盗という犯罪すらもストレス解消になってしまったのだろうか。


それとも、自分に嘘をつき続けていたあまり、倫理観が麻痺してしまったのだろうか。


いずれにせよ、犯罪だとは分かっていても私の中にはもう一度あの高揚感を味わいたいという気持ちがあったのだ。


そして、私は今日もあのコンビニへと入り、商品を自らの意思で盗んだ。


家に帰るまではバレてはいないだろうかというスリルに鼓動が高まり、家の中に足を踏み入れた瞬間私の中にあの高揚感が湧き上がってきた。




私はこの行為をやめることができなかった。


来る日も来る日も物を盗んだ。



私の中にほんの少しだけ残った良心が『やめた方がいい』と言ってくることもあったが、生憎、私は自分自身に嘘をつくことに慣れている。


『大丈夫だよ』と自分自身を諭し、盗みをやめなかった。




だが、毎日自分の店の商品を盗む私に店員が気づかないわけもなく、


ある日私が店から出ようとすると、店員に背中をトンと叩かれた。



自分への嘘を積み重ね、私は汚い泥棒になってしまったのだ。

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あなたのカップ麺はきっと湯伸びする。 綴木しおり @kamihitoe

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