第71話
「助ける…私を?」
「そうよ!」
キョトンと不思議そうな顔をするベルに、ミサが真剣な表情を浮かべた。
「あなたが異世界なんかに囚われるから、何とかしようと思って…」
「待ってください、それって…っっ」
その発言にいち早く反応したのは、当のベルではなかった。
「ルー…?」
直ぐ横に立っていた新島恵太が、一体何事かと少女の顔を覗き込む。
「勇者召喚の儀式ですね」
アリスがルーの代わりに続けて答えた。
「え…それじゃ、この人も勇者だったの?」
その答えを聞いて、新島春香が驚いた声を上げた。
「話せば長くなりますが、ハルカさんたちとベルさんは敵同士でした」
「敵って…さっきは大恩人だって、自分で言ってなかった?」
ルーの補足説明に、真中聡子が首を傾げる。
「だからそれが、話せば長くなるって意味だろ」
「…そうですね、ショウの言う通りです。お話を脱線させてしまい申し訳ございません」
春日翔の溜め息混じりの声にアリスが賛同すると、スッと一歩進み出てミサに深々と頭を下げた。
「いえ…そんな」
すると恐縮したように、ミサが両手と頭をプルプルと横に振る。
「で…それで何で、堕天した訳?」
とりあえず一区切りついたところで、ベルが再び口を開いた。
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「ベルが異世界に囚われたと聞いて、私はすぐに女神さまの神殿に赴いたの」
ミサは一度周りを見回すと、ゆっくりとその時の事を話し始めた。
「何でよ?受肉の試練中は近寄ってはいけないハズでしょ?」
「だから、アンタを救うためにでしょ!」
ベルの他人事のような物言いに、新島春香が呆れた声を上げた。
「そのとおりです。ですが女神さまにも同じ事を言われました。何故来たのか?…と」
そう言ってミサは弱々しく笑う。
「私の訴えは聞き入れてもらえず、此処へは近付くなと追い返されてしまって…」
「そりゃそーだよ。私の運命は私自身が切り開かなくちゃ、女神になんてなれないんだから」
ベルの発言を聞いて、ミサは呆気にとられたようにキョトンとした。それから口元を押さえて「フフ」と笑う。
「ベルは本当、女神さまと同じことを言うのね。だけどその時の私は、親友の危機に居ても立ってもいられなかったのよ」
親友…という言葉に、ベルは照れ臭そうに頭を掻いた。
「そこで…ならば自分で助けに行こうと、一時的に制限解除の許可を得るために申請を出したの」
「……ミサって、賢いのにバカだね」
「本当にそのとおりだと思う。そして勿論、申請は棄却されてしまって…」
「当たり前だよ」
「そうね…だけど既に女神さまへの不信感を募らせていた私は、あなたを助けるために許可もなく次元の扉を開いてしまった」
そうしてミサは、自虐的な笑顔を見せる。
「きっとバチが当たったんでしょうね。ベルの気配の直ぐそばに扉を開いた筈なのに、その瞬間、大量の闇の力が溢れ出してきて、その後は…」
そこまで話して、ミサは口をつぐんだ。
暫くの沈黙…
最初に口を開いたのは、ルーだった。
「アリスさん…この話、もしかして」
「それ以上言わないで…あまり考えたくない」
「…何か心当たりがあるのか?」
アリスとルーの様子に、春日翔は訝しげな視線を向ける。アリスは暫くその視線に耐えていたが、やがて観念したように深い溜め息を吐いた。
「おそらくですが…私たちがベルを撃退したときの事だと思います」
「魔族の呪縛が、大量の影となって噴き出してましたから」
ルーが続けて説明を補足する。
「それって、つまり……今のこの状況は、全部この人のせいだってこと?」
真中聡子が思わず声を張り上げた。
その声に釣られるように、全員がベルの方に白い目を向けた。
「……え?」
ベルの顔から、サァーッと血の気が引いていく。
「ちょ…ちょっと待ってよ…私だって被害者なんだよっ!見るな、そんな目で私を見るなーーっ」
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