第68話

「結局自分でやらなきゃかー」


 突然少女の声が響いたかと思うと、シャドーパンサーがドロッとスライム状に溶け出した。それから人型に集まっていき、ひとりの少女の姿になる。


 見た目は小学生くらいだが、お胸には豊満な双丘が激しく自己主張している。大きくクリッとした紅い瞳と、桃色の頭髪は三つ編みの両おさげに結われており、肩から胸の上にまで届いていた。


 黒のマイクロビキニにオペラグローブ、膝上まである黒のレザーブーツ姿は、お胸がある分セクシーダイナマイトが増している。


「ミサ…」


 ベルが嗚咽のような声を発した。


「久しぶりー、ベル。元気そーで安心したよ」


「ミサっ、なんでアンタみたいな真面目で真っ直ぐなヤツが堕天なんかっっ」


「それをベルが言っちゃうかーっ」


 言いながらミサは「ケラケラ」と笑った。


「ど…どーいう意味よ?」


「そんなに知りたいなら、私に勝ったら教えてあげるーっ!」


 ミサが右手を天に突き上げると、その手に黒い闇鎌が出現する。


「皆んな、離れてっ!」


 ベルは右手を前に突き出して、真っ白い聖杖を呼び出した。


「あはっ、いっくよー!」


 ミサは貯水タンクの上から飛び降りると、ベルに向けて闇鎌を振り下ろした。ベルはタンと空中に跳ね上がり、その一撃を寸前で躱す。ミサの斬撃はスパンと校舎を斬り裂き、その亀裂は地面にまで届いていた。


 間髪入れず、距離を取ったベルを追撃するように、ミサが今度は闇鎌を横手に構える。


「春香っ、伏せろ!」

「サトコさんっっ」


 新島恵太とルーが、それぞれ新島春香と真中聡子に抱きついて、そのまま屋上に倒れ込んだ。


 その瞬間、闇鎌を横に薙いだミサの一撃が、フェンスと出入り口の部分を、スパンと真一文字に斬り裂いた。


「ミサっ、アンタ少しは遠慮ってモノがないの?」


「そんなの残ってたら、堕天なんてしてないよー」


 防戦一方のベルが、悪態をつきながら校舎から飛び下りた。ミサも、ベルの意図を理解しながら追いかける。どうやら標的をベル一本に絞っているようであった。


   ~~~


「ありがと、恵太…もう大丈夫」


 新島春香が、顔を真っ赤にしながら呟いた。


「お…おう」


 それを受けて急に照れ臭くなった新島恵太が、同じように顔を真っ赤にしながらゆっくりと離れた。


「ケータお兄ちゃん、ご無事ですかっ?」


 起き上がったルーと真中聡子が近付いてくる。それを確認した新島恵太は、ホッとした表情になった。


「まー何とか、そっちも大丈夫そうだな」


「ルーのお陰でね」


 真中聡子が、蒼い顔で弱々しく笑う。


「ありがとな、ルー。聡子守ってくれて」


 新島恵太は優しく微笑むと、ルーの頭をポンと撫でた。ルーは頭の上の新島恵太の手に自分の手を添えると「エヘヘ」と嬉しそうに笑う。


「しっかし、ハチャメチャだな」


 校庭の方に目を向けながら、春日翔とアリスが4人の元に近付いてきた。


「ベルは今のところ防戦一方のようですが、大丈夫でしょうか?」


 アリスが不安そうな声をあげる。


「どうだろうな?得物を見るに、ベルってのは魔法主体のようだからな…」


「それではまさか…魔法が使えないのでは?」


「神様が人間と同じ魔法しか使えないってのは、さすがに無いだろう」


「……それもそうですね」


「それじゃ何で、攻撃しないのよ?」


 新島春香が不思議そうに首を傾げる。


「隙がないんですよ」


「あれだけ近付かれたらね…」


 ルーと真中聡子が浮かない表情を見せた。


「だったらその隙を、ボクらで作ろう」


 新島恵太が笑顔で提案する。


「お前な、そんな簡単に…」


「一瞬でいいんだ。ボクらなら出来るさ」


 春日翔の反論を、新島恵太が力強く遮った。

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