兄妹の架け橋

第67話

「茉理っ、茉理っ!」


 グッタリと身体を預けてくる中野茉理を、新島春香は焦ったように何度も揺する。


 しかし制服姿に戻った中野茉理は、それでも何の反応も示さなかった。


 新島春香は顔面蒼白になり、思わず息を飲んだ。


「まつ…っっ」

「大丈夫、眠っちゃっただけ」


 いつのまにか横に立っていたベルが、新島春香の頭の上に手を置いて、彼女の絶叫を未然に防ぐ。


「ホントっ!?」


「ホントホントっ、全然ダイジョーブっ」


 焦ったような表情を向ける新島春香の頭を、ベルがポンポンと撫でながら「ニッ」と笑った。


「良かった」


 新島春香は安心したように「ヘヘッ」と笑うと、再び中野茉理を抱きしめた。


   ~~~


「ケータお兄ちゃんっ!」


 プシューと知恵熱を吹き出しながら新島恵太が呆然と立ち尽くしていると、突然後方から左腕をグイッと引っ張られた。


 新島恵太はハッと我に帰る。


「私だってケータお兄ちゃんを好きな気持ちは、ハルカさんには負けてませんからっ!」


 そう言ってルーは、新島恵太の背後からギュッと抱きついた。


「ちょ…ルー、とりあえず一旦離れてっっ」


 背中越しに抱きつかれているため、ルーから離れることも出来ずに新島恵太は慌てふためいた。


「恵太くん」


 そのとき、もう一人の少女の声が新島恵太の名前を呼んだ。


「さ…聡子っ!?」


 真中聡子の出現に、新島恵太の表情から血の気がサァーッと引いていく。


「ち…違うんだコレはっっ、ルーがいきなり…」


私に…弁解してくれるんだね」


 真中聡子は新島恵太を見つめながら、弱々しい笑顔を浮かべた。それからルーに視線を移す。


 ルーの焦りが、痛いほどよく分かる。


 だけど……


「まだ、決着がついた訳じゃないからっ!」


「そうですっ、まだ決着はついてませんっ!」


 真中聡子とルーが、何かを振り払うように声を張り上げた。


「恵太くんっ!!」


「は、はいっっ」


 真中聡子に凄まれ、新島恵太は背筋を伸ばす。


「例え従兄妹だとしても、兄妹として育てたご両親を説得するのは簡単ではない筈よっ!」


「……は?」


 新島恵太は、素っ頓狂な声を上げた。


「その点私なら、ご両親に紹介しても何の問題もない…それをシッカリと覚えておいてっ!」


「だったら、私だってそーですっ!何の問題もありません!」


 ルーも負けじと、声を張り上げた。


「ルーは異世界人でしょ!そもそもが論外っっ」


「それは差別ですっ、偏見ですっっ」


「第一、いつまで恵太くんにくっ付いてるのよ!いい加減に離れなさいっ!」


「イヤです、サトコさんこそ遠慮してくださいっ」


 ルーと真中聡子に挟まれて、新島恵太が揉みくちゃになる。


 そのとき新島春香が、3人のそばに仁王立ちで立ちはだかった。


「お前ら、いー加減にしろーーっ!」


   ~~~


「賑やかだな。まさか、ずっとこんな感じだったのか?」


 春日翔が唖然としながら呟いた。


「そうですね。何だか少しホッとします」


 アリスが微笑ましい視線で3人を見つめる。


「ホッとしてるとこ申し訳ないんだけど、どーやら来たみたいよ」


 ベルが中野茉理をフェンスに寄りかからせながら、貯水タンクの上を見上げた。


「えっ?」


 アリスと春日翔が、ベルに誘われるように視線を上に上げる。


 そのときシャドーパンサーが、貯水タンクの上に姿を現した。

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