第65話
「見ただけで全てを消し去ってしまうような、恐ろしい
「……こんなボクに、居場所なんか」
「だけど、そんな先輩に朗報です。先輩の悪魔のような能力が、ちゃんと役に立つ世界があるの」
「……」
「そこには、先輩のことを必要としてくれる人がいるんだよ!」
「…本当に、そんな人が?」
「うん、いるよ。だからさ、先輩が望むなら、私がそこに連れて行ってあげる」
「ボクが、望むなら…」
「うん、どーする?」
「……ボクは…」
そのとき、甲高い金属音とともに、何かが倒れる大きな音が鳴り響いた。
「往生際が悪いなー」
その声を最後に、新島恵太の耳元にあった少女の気配が遠のいていく。
再び静寂の暗闇が、新島恵太を包み込んだ。
「恵太っ!」
不意に、自分の名を呼ぶ少女の声が届く。
「その声、春香かっ!?」
新島恵太は思わず目を開けそうになるが、
「来るなっ、春香…来ないでくれっ!」
新島恵太は両手を前に突き出して、拒絶を意思表示する。同時に後ろに後退るが、すぐに背中がフェンスに突き当たった。
「スゴい能力だねー」
そのとき聞こえてきた新島春香の声は、新島恵太にとって意外なモノであった。
「聡子とかルーとか、いっつも私の邪魔ばかりするんだから、恵太が全部消してくれたら、ホントせいせいするわね」
「い…いきなりお前、何言い出すん…」
「私はね、こんな世界滅びたって、どーだっていいの。恵太さえ横にいてくれたら、それでいい」
「……こんなときに、何の冗談だよ」
新島恵太は「はー」と溜め息を吐く。
「本気だよっ!」
次の瞬間、新島恵太の耳の奥に、新島春香の力強い声が響いた。
「……へ?」
「本気だよっ!」
新島春香は同じ言葉を繰り返す。
新島恵太の閉じたまぶたの裏に、新島春香の真剣な眼差しが確かに見えた。
「例え恵太が全てを消し去ってしまったとしても、私だけはずっとそばにいる。恵太をひとりになんてさせやしないっ!」
「だ…だけどボクはっ、そんなお前のことも消し去ってしま…っ」
「大丈夫…」
その瞬間、新島恵太の唇に、とても柔らかいモノが重なった。
新島恵太は、思わず目を見開いた。
眼前の全てを、瞳を閉じた新島春香の顔のドアップが支配している。
新島恵太は焦ったように身体を仰け反らせると、後頭部をカシャンとフェンスに打ち付けた。そのまま無意識に、口元を右手の甲で拭う。その顔は、耳の先まで真っ赤に染め上がっていた。
「ほら、大丈夫」
新島春香が、クルリと回りながら可愛く微笑む。
「聖女のスキルなんだって。つまり私の存在はね、全て恵太を護るためにあるの。だからひとりになんて絶対にさせない!」
新島恵太は破裂しそうな心臓の鼓動を聞きながら、それでも新島春香から視線を逸らせることが出来なかった。
「それにね、恵太のスキルは消し去る
「…はあ!?」
新島春香のその言葉に、新島恵太は心底驚いた声を上げた。
「ただ小さくしてるだけ。だから恵太なら、元に戻すことも出来るハズだよ」
「そ…そーなのか?」
「うん!ほら、私も手伝うから、落ち着いて感じてみて」
そう言って新島春香は、新島恵太の両手を自分の両手で包み込む。
新島恵太は一度、新島春香と目を合わせると、ゆっくりと瞳を閉じた。
繋いだ手から、新島春香の白く清らかな力が流れ込んでくるのが分かる。その波長に合わせるように、自分の中にあった赤黒い炎が、白い輝きに変わっていくのを感じた。
新島恵太が再び目を開いたとき、周りの建物が全て元の風景に戻っていた。
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