第64話

「どうやら境目がハッキリしてきたね」


 ベルが窓の外を眺めながら、ボソッと独り言のように呟く。それに気付いた春日翔が、納得したような顔をベルに向けた。


「そういう事か…」


「うん、多分ね。ミサも、ケータさんのスキルを検証中なんだよ」


「ちょっと!二人だけで納得してないで教えてよ」


 新島春香が少しイラついた表情で二人を睨む。ベルは苦笑いを浮かべると、「しょーがないなー」と窓の外を指差した。


「ほら、ずっと向こうに縮小されずに残ってるトコがあるでしょ?」


「……うん」


 新島春香が、目を凝らしながら頷く。


「どう?綺麗に揃い過ぎてると思わない?」


「分かった!スキルの効果範囲ねっ!」


 いち早く気が付いた真中聡子が、思わず声を張り上げた。


「はい、正解っ!だいたい5キロメートルってトコかなー?コレで、太陽や月は大丈夫って実証された訳だ」


「ですが…あちら側の窓から見える範囲では、バラバラの形に見えますが?」


 アリスが廊下側の窓に目を向けながら、不思議そうに疑問を投げかけた。


「あー…目を閉じたんだよ…多分」


「自分のせいだって、気付いちゃったんですね」


 ベルの推測に、ルーが悲しそうに同意する。


「最初は呆気に取られていたんだろーけど…気になって反対側を見に行ったら、建物がいきなり消え始めた。さすがに気付くよね…」


 ベルの言葉はあくまで推測だが、誰もが新島恵太の行動を手に取るように想像する事が出来た。


「だったら今のうちに恵太くんを助けようよ!」


 真中聡子が思い付いたように提案する。しかしそれを聞いたベルは、厳しい表情を浮かべた。


「もう遅い…私がミサなら、既に囁いてる」


「何よ、囁くって…?」


 そんなベルの表情に、新島春香が不安そうに声を絞り出した。


「お前の能力は危険すぎる。世界を滅ぼすような能力は、誰にも受け入れられない。この世界にお前の居場所はないんだぞ…って感じかな?」


「ひどい…っ」


 真中聡子が口元を押さえて絶句する。


「恵太だってバカじゃないわ、そんな突拍子もないコト信じる訳…」


「いや、今なら効くかもな」


 新島春香の必死の抵抗も、春日翔に遮られた。


「恵太は自分のせいだと目を閉じた。絶望の暗闇の中で告げられた言葉を、そのまま鵜呑みにしてもおかしくはない」


「だけど、勇者のスキルは結界の中でしか発動しませんっ!」


 ルーが身を乗り出して、春日翔を否定するように声を張り上げた。


「それは検証しましたっ!」


「恵太がそれを知ってるならな」


「あ……」


 しかしルーの反発も不発に終わる。事情を説明していなかったのは、他でもない自分自身なのだ。


「だからと言って、ケータさまを見捨てるという話にはなりません!」


 そのときアリスの凛と透き通る声が、教室中に響き渡った。


「モチロン、そのとーりだよ」


 ベルがいつもの調子で、ゆるーく笑った。


「だけど勢いに任せて押しかけても、ケータさんを救い出すことは出来ないよ。絶望のドン底からでも引っ張り上げられる、何か強い希望ひかりがないと…」


 ベルは1人ずつ全員に順番に目を向けると、一番最後に新島春香で目を止めた。


 そのときルーは、ベルの視線の意味に気付いた。


「ハルカさんなら、もしかしてっ!」


「私にも分かるよ、ルー」


 ベルから視線を逸らさずに、新島春香はゆっくりと応える。


「理由は分からないけど、私なら大丈夫って絶対の確信がある」


「だったら任せちゃおっかなー」


 新島春香の瞳の奥に宿る輝きに、ベルは嬉しそうに頷いた。

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