第63話

「ちょっと確認したいこコトがあるから、上の階に上がるよー」


 ベルの言葉を聞き、ルーがパッと右手を上げる。


「だったら、私たちの教室に向かいませんか?」


「ん、何階?」


「3階です」


「オッケー、案内して」


「はいっ!」


 ルーは嬉しそうに返事をしてから、先頭で階段を登り始めた。


「ベル、アナタこんな事して大丈夫なんですか?」


 アリスはベルのそばに寄ると、不審そうな瞳を小柄な少女に向けた。


「やー、あまり良くはないんだけどね」


 ベルはアリスに向けて「アハッ」と笑う。


「あのまま放っといたら、全滅の可能性があったからさー」


「ぜ…全滅っ!?」


「それはさすがに困るんで…ま、怒られない程度に上手くやるよ」


 ベルは頭の後ろで両手の指を組んで、相変わらずの緩い笑顔をアリスに見せた。


   ~~~


「そろそろアンタが何者か、教えてくれない?」


 全員が1年2組の教室に入ったあとで、とうとう新島春香が口を開いた。


 真中聡子も新島春香の横に立って、「フンフン」と何度も頷きを繰り返す。


「あー…そーいやそっか」


 ベルは一瞬ポカンとした表情になったが、納得したように頷いた。


「私はベル。まー、女神みたいなモンよ」


「女神っ!?」


 新島春香が素っ頓狂な声を出す。


「女神って、異世界とかに転生させたりする…あの女神!?」


「アハッ、ケータさんと同じコト言ってる」


 ベルが思い出したように、楽しそうに笑った。


「そう、その女神。ファーラスから地球こっちに戻してあげた、大恩人なんだよ」


「ええっ!?」


 その言葉に、新島春香と真中聡子が同時に驚く。


「自分で言うとは、恩着せがましいな」


 成り行きを見守っていた春日翔が、大きく溜め息を吐いた。


「確かに凄い方ですが、この事態を巻き起こした張本人でもあります」


「皆さんが生命を狙われるようになったのは、ベルさんが『異界の門』を失くしたからなんですよ」


 アリスとルーの言葉を聞いて、元勇者の3人が徐々に物凄い表情になる。


「ちょちょ、ちょっと…何も今、そんなコト言わなくてもっっ」


 ベルは3人からの視線に耐えかねて、アリスとルーの方にすり寄っていった。


   ~~~


「それで…恵太は無事なのね?」


 それから新島春香は、自身にとっての本題をベルに質問した。


「生命に別状はないよ。無理矢理起こされたスキルが暴走してるだけ」


「暴走?」


「…見て」


 ベルは窓際に近寄ると、窓を開けて外を指差した。全員が誘われるように窓の外に目を向ける。


 そこには…何もなかった。


 学校の周りにあるべき建物が姿を消して、何もない平野が広がっていた。


「ほら、あそこ」


 ベルが更に遠くの方を指差す。それは正に建物が消滅する瞬間であった。そしてその現象は段々と範囲を広げていく。


「ど…どーなってるの!?何で建物がドンドン消えてくのよっっ」


 新島春香は焦ったように声を張り上げた。


「正確には、訳じゃないんだよね」


「まさかっ…縮小ですかっ?」


 ベルの説明に、アリスが思わず叫んだ。


「…ケータお兄ちゃんのスキルですね」


 ルーも口元に右手を当てながら、考え込むように顔を伏せる。


「…縮小?」


 新島春香が確認するようにベルを見た。


「そう、100分の1くらいに縮んでるから、ここからだと消えてるように見えるんだよ」


「ちょ…ちょっと待って!だったら何で、この校舎は無事なの?」


 真中聡子が焦ったようにベルを問い詰める。


「それはスキルの条件を満たしてないからだね」


「なるほど…近すぎるって事か」


「わお、聖騎士さん、アタリっ!」


 ベルは驚いたように春日翔の顔を見た。


「スキルの条件は『ひと目で全体像を見る』ってコト。屋上にいるケータさんには、この校舎をひと目で見ることは出来ないからね」


 そう言ってベルは、近くの机にトンと腰掛ける。


「同じ理由で地球も大丈夫。逆に言ったら、太陽や月の方が危ないくらいだよっ」


 洒落にならない事を言いながら、ベルはあっけらかんと声をたてて笑った。

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