第61話
新島春香は校舎から飛び出すと、辺りをキョロキョロと見回した。しかし校庭やその付近には誰の姿も見当たらない。
「ちょっと春香、迂闊すぎっ!何があるか分からないのよ、せめて結界くらい張ってよ!」
「あ、そっか」
後から追いついてきた真中聡子に耳元でドヤされ、新島春香はポリポリと頬を掻いた。
「出てきた出てきた、コッチよコッチ」
再び中野茉理の声が響き、新島春香はキョロキョロとその姿を探した。
「アハッ、上よ、上」
その言葉に新島春香と真中聡子は振り返ると、背を反らせて三階建ての校舎を見上げた。
すると屋上を囲っている緑のフェンスの上に、少女がひとり立っていた。
露出度の高い黒のマイクロビキニ姿にオペラグローブ、そして膝上まである黒のレザーブーツを着けたその少女は、紛れもなくミサである。
「茉理、恵太はドコ?」
しかし新島春香は、今日はミサとは呼ばなかった。
ミサのピンクの頭髪がサラサラと風に揺れる。柔らかそうな髪とは対照的に、耳の上の辺りから生える2本の黒いツノがその存在感を更に示していた。
「大丈夫、ココにいるよ。まだ何もしてないから安心して」
中野茉理は紅い瞳を妖しく輝かせると、新島春香の言葉を否定せずに可愛くニッコリ微笑んだ。
するとカシャンとフェンスを両手で掴み、新島恵太がフェンス越しに姿を見せた。
「恵太っっ」
「恵太くんっ」
新島春香と真中聡子が、揃えたように声を張り上げた。新島恵太の無事な姿に、少し安心する。
「春香に聡子、お前ら無事かっ!?」
「うん、大丈夫っ。それより恵太こそ大丈夫なの?何もされてない?」
「ああ、今んとこ無事…てか、一体何がどーなってんだ?いきなり屋上だし、周りは変だしっ」
新島恵太は、頭を抱えて困惑した。
「何よ、春香…私って、そんなに信用ない?」
新島春香の言葉を聞いて、中野茉理は口元に右手を添えながら「クスクス」と妖しく笑った。
「当たり前でしょっ!そんなエロい格好した女の何を信じろって言うのよっっ」
「え、そっち!?」
横で聞いてた真中聡子が、思わず大声でツッコミを挟み込んだ。自分が抱いていた心配との、ベクトルの方向性の違いに驚愕を隠し切れない。
「そっち…て、どっちよ?」
突然耳元で叫ばれた新島春香は、耳を押さえながら聞き返す。
「アハっ…アハハハハーー!」
一瞬呆気にとられた中野茉理が、お腹を抱えながら大声で笑いだした。
「ごめんゴメン、悪かったよ。自分の好きな人が、こんなカッコした女に連れてかれたら、そりゃ心配するに決まってるわー」
「ちょっと茉理っっ!恵太が変に思うから、変なこと言うのヤメテって何度も言ってるでしょーっ!」
新島春香は顔を茹でダコのように赤らめると、中野茉理を怒鳴りつけた。
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「ハルカさんっ、サトコさんっ!」
ルーとアリスと春日翔が教室棟前に駆けつけると、校庭に佇む新島春香と真中聡子の姿があった。
「ルーっ!?皆んなもいるのっ!?」
新島春香は現れた3人の姿に驚きの声を上げる。
「あらら、やっと準備が出来たと思ったら、全員揃っちゃったかー」
そのとき校庭に、少女の声が響き渡る。ルーは声の方向を聞き分けると、瞬時に顔を上に向けた。
「ミサ…さん」
フェンスに立つ少女の姿にルーが呟く。それと同時に、その足下に新島恵太の姿を見つける。
「ケータお兄ちゃん!?」
「おいおい、何で恵太があんな所にいるんだよ」
春日翔がガシガシと頭を掻きながら呟いた。
「翔、それに皆んなも…何がどーなってるんだ?」
新島恵太の様子を見て、アリスが怪訝な視線をルーに向けた。
「ルー、もしかしてケータさまには…」
「あっ!?まだ事情を説明していませんっっ」
ルーの焦った表情に、アリスは本日何度目かになる大きな溜め息を吐いた。
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