第60話
春日翔は、キングリザードマンの方に無造作に歩み寄っていく。キングリザードマンは、そんな春日翔に向けて渾身の突きを放った。
そのとき身体を捻るように最小限の動きでその槍先を躱した春日翔は、キングリザードマンが槍を引き戻すスピードと同等の速度で一気に間合いに飛び込む。
しかし即座に反応したキングリザードマンは、盾を構えて春日翔の侵入を阻む。そのまま盾全体を使って、春日翔を押し戻した。
次の瞬間、春日翔の背後から、彼の肩を踏み越えアリスが跳躍した。春日翔を押し戻すため、やや前傾姿勢をとっていたキングリザードマンの真上に躍り出る。
キングリザードマンは一瞬アリスに眼を向けると、グッと踏み込み春日翔をさらに強く押し込んだ。同時にアリスを狙って尻尾を振り抜く。
尻尾の攻撃がアリスを打ち付ける寸前に、ルーの光の矢が尻尾を貫き、その軌道が若干逸れた。
アリスは空中で身体を捻って尻尾の攻撃をギリギリで躱すと、そのまま着地し再び間合いをとった。
「助かりました、ルー」
「上手くいって良かったです」
アリスは「ふー」と大きく息を吐き出しながら、ルーに感謝の意を述べる。それを受けて、ルーもホッとしたように微笑んだ。
「おい、アリス。その剣をコッチに寄越せ」
そのとき春日翔の全身から、ユラリと熱気のようなモノが立ち昇り始めた。
「ショウ、一体何を…?」
「このケダモノを、渾身の力で叩っ斬る」
春日翔の黒縁眼鏡が光の反射で白く輝き、その奥の表情が全く見えなくなる。
「春日翔さんは、どーやら怒っているようですね」
ルーが冷静に状況を分析した。
「え…?何が原因で、そんないきなり…」
「それは勿論、アリスさんがやられそーになったからですよ」
「へっ!?」
アリスの頭頂部から、シュボンと勢いよく湯気が吹き上がる。
「アリス、早く寄越せっ!」
「は、はいっ!」
アリスは顔を真っ赤に染めながら、片手剣を春日翔に向けて放り投げた。
春日翔は持っていた双子剣の片割れを、弧を描き飛んでくる兄弟に向けて振りかざした。
「ファルシオン!」
その瞬間、吸い寄せられるように2本の片手剣が融合し、再び1本の幅広い刀身へと姿を変える。
「覚悟しろよ、トカゲ野郎。例え土下座をしようが赦さねーからな」
~~~
真中聡子は呆然と立ち尽くす新島春香の左手を取ると、グイッと引っ張りながら階段のところまで連れていった。
「座って」
「え…?」
新島春香は真中聡子の顔を見ながら、目をパチクリと瞬かせる。
「いいから、座って!」
真中聡子は正面から新島春香の両肩に両手を乗せると、グッと押し込むように無理矢理座らせた。それから自分も、その横に腰を下ろす。
「何があったか、詳しく聞かせて」
「う…」
真中聡子に強い視線で見つめられ、新島春香は若干たじろいだ。真中聡子はそれ以上は何も言わず、ただ真っ直ぐに新島春香を見つめ続ける。
新島春香は観念したように顔を伏せると、中野茉理や指輪の事をポツポツと話し始めた。
「いい友達じゃない」
聞き終えた真中聡子の第一声は、新島春香にとって意外なモノであった。
「え…!?」
「偏見もなく、応援してくれるなんて」
「そー…なのかな?でも、何でバレたんだろ?」
「アンタねー」
真中聡子は大きな溜め息を吐いた。
「皆んな兄妹だからって除外してるだけで、アンタ比較的分かり易いからね」
「え、ウソっ!?」
「嘘なもんか、現にこうしてバレてるじゃない」
「うー…」
新島春香は顔を真っ赤にして俯いた。真中聡子は苦笑いを見せながら話を続ける。
「だけどそれなら、恵太くんは大丈夫そうね」
「ホント!?」
それを聞いて、新島春香がパッと顔を上げた。
「理由は分からないけど…指輪を持っていったのなら、今すぐどーこうされるコトはないと思う」
殺すだけなら、そんな面倒な事はしない筈だ…真中聡子は自分に言い聞かせるように呟いた。
そしてそのとき、校舎の外で聞き覚えのある大きな声が響き渡る。
「春香ー、そろそろ出ておいでよ、春香ー!」
「ま…茉理っ!?」
新島春香は驚いたように、勢いよく階段から立ち上がった。
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