第58話
ルーが駅を出てロータリーを学校に向けて歩いていると、突然周りの風景が灰色一色に一転した。
『ルー、ルー』
それと同時に、ルーの脳裏に声が響く。
「え…、ベルさん?」
『今日は何だか、いつもとちょっと違うみたいよ』
「…どういう事ですか?」
『理由は分からないけど、結界の領域がかなり広範囲に広がってる。半径10キロメートルくらいはあるんじゃないかなー…もっとかな?かなりの力を消費するはずなのに、何考えてんだろ?』
「え、待ってください。それじゃ…」
『うん、全員入ってるね。何が起きるか分からないし、早く合流した方がいいかも…てか、既にお出ましだ』
「え…!?」
そのときルーの後方で「グルル」と獣の喉の鳴る音が響き渡った。
ルーが咄嗟に振り返ると、駅舎の屋根の上に複数のレッドウルフの姿があった。
レッドウルフは高温を発する赤い体毛に覆われた狼のような魔物である。金属製の近接武器では、数体を相手にするだけで武器が熱を持ってしまい戦えなくなる。
ましてやルーの「ツインセイバー」はショートソードの部類に入る。まともに戦える訳がない。
『気を付けてっ』
「はいっ!」
その言葉を最後に、ベルの声が遠のいた。
「いきますよっ、いきなりシュートフォーム!」
ルーの掛け声と共に、左手に光り輝く白銀の弓が出現する。ルーは白銀の弓を握りしめると、全身に魔力を巡らせた。
今は護るべき相手がいない。わざわざ苦手な接近戦をする必要がないのだ。
その瞬間、レッドウルフが屋根の上から一斉に飛びかかってきた。
ルーは冷静に狙いを定めると、先頭のレッドウルフを正面から射抜いた。すると空中で、崩れるように瞬時に消え去る。
残りのレッドウルフは、仲間の消滅など意にも介さず次々とルーに襲いかかった。
しかしルーは、ひょいと後方に跳躍するとバス停の屋根の上に飛び乗った。その際空中で矢を放ち、さらにもう1体のレッドウルフを消滅させる。
ルーはサッと振り返ると、屋根の上を猛スピードで駆け出した。そのスピードは、追いかけてくるレッドウルフに引けを取らない。
短気な個体でもいたのだろうか、1体のレッドウルフが群れを抜け出し屋根の上に襲いかかった。
その行動を視認したルーはさらに跳躍すると、後方に振り返り瞬時に光の矢で射ち抜いた。
しかし、その行動は誘いだった。
跳躍が原因でルーの速度は激減する。そのうえ、屋根の範囲からも外れてしまった。
残ったレッドウルフは目測を定めて、ルーの着地地点目掛けて猛追していく。
「魔物も賢いですねー」
ルーは思わず感心すると、不意に右手をスッと横に伸ばした。同時にそこに立っていた街灯を軸に、クルリと方向転換する。
ルーの着地のタイミングに合わせるように襲いかかったレッドウルフたちは、無人のその場所に群がる形となってしまった。
ルーは空中で強めに弦を引き絞ると、寿司詰め状態のレッドウルフに向けて一気に解放した。より魔力の込められた光の矢は、3体を貫き消滅させる。
ルーは再び駆け出すと、追従してくるレッドウルフを1体ずつ冷静に射抜いていった。
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