帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します！

第54話

「じゃー、ちょっと本気だすよー」

　ミサはシャドーパンサーの背からピョンと飛び降りると、瞬時に跳ね上がった。風のような猛スピードで、一直線にカリューに迫る。

　カリューはその場で一度バサっと羽ばたくと、ミサに向けて炎のブレスを噴いた。

　ミサは自身に迫る炎のブレスを、黒鎌で横一線にスパンと斬り裂く。そして二又に別れたブレスの間を突進の勢いそのまま突っ込み、カリューのアゴを蹴り上げた。

「ぐむっっ」

　その衝撃に、カリューの表情が歪む。

　間髪入れず、カリューのアゴを支点にミサが方向転換し、一瞬でシルフの目前に到達する。

「やばっ…」

　反応の遅れたシルフは、思わず身体が硬直してしまい身動きが出来ない。

　しかしそれと同時に、光り輝く一本の矢がミサの眼前に迫ってきていた。

「！？」

　ミサは咄嗟に首を捻って矢を躱す。

　光の矢はミサの右ツノをかすめると、そのまま天空へと消え去っていった。

「私もいてますよっ！」

　ルーが得意げに声を張り上げる。しかしその瞬間…

「ぐああぁぁあああーー」

　突然ミサが頭を押さえて叫び声をあげ、体勢を崩して落下していく。

　矢を放った当のルー自身も、あまりの事に呆気に取られてポカンとする。

「ぐうう…」

　ミサは両膝をつき、左手で額を押さえてうずくまってしまう。

　そのときギンが、好機とばかりに飛びかかった。

　ミサは辛そうな表情のままギンの方に顔だけ向けると、右手の黒鎌を鋭く振り抜いた。

　ギンは素早く身をひるがえすと、空中で体勢を整え氷のブレスを噴く。ブレスはそのまま直撃し、周辺の地面ごと凍らせた。

「チッ、まーた逃げられた…」

　ギンが後ろを振り返り、高いビルの方へと視線を向ける。するとビルの陰から、ミサを背負ったシャドーパンサーが姿を現した。

「あの魔物、普通の魔物とは違うようだな」

　暫しシャドーパンサーを観察していたカリューがボソリと呟いた。

「あー？どーいうコトだよ？」

　ギンが訝しげな瞳でカリューを見上げる。

「敵意が引いた。どうやらこれで引き上げるつもりのようだ」

「なにー！？それじゃオレ様は、このまま帰るってコトかっ？」

　焦ったようにギンが声を張り上げた。

「なになにー？もしかして暴れ足りないのー？」

　シルフが口元を押さえながら「クスクス」とギンを笑い飛ばす。

「違うっ！オレ様はまだサトコに会ってねー…」

　その瞬間、シャドーパンサーがトプンと影の中に沈み込む。同時に隔離結界が解除され、辺りの景色に色が戻った。

　カリューやギンの姿も、まるで霞のようにフワッと消え去った。

「ととっっ」

　呆気に取られていたルーは、不意に響いた声に反射的に顔を向ける。そこにはバランスを崩してよろける真中聡子の姿があった。

「あっ、サトコさん！？」

「大丈夫、今回は起きてる」

　咄嗟に駆け寄ろうとするルーに制止をかけて、真中聡子はニッコリ微笑む。

「今のが私の仲間？」

「はい、カリューとギンとシルフですっっ」

　ルーは顔を真っ赤にして、興奮気味に答えた。

「スゴく楽しそうな感じだった。いつかまた会いたいな」

　そう言って真中聡子は「フフッ」と笑った。