第53話

「いー加減にしてくれないかなー、そろそろ鬱陶うっとーしいんだけどっ」


 階段上のミサが、黒鎌を肩に担ぎながらピリッとした怒気を発する。


「アイツちょっとヤバそーだね」


 ルーを下ろしたシルフは、ミサを見上げながら珍しく緊張したような声を出した。


「ベルさんの同僚らしいです」


「ふーん」


 ミサから視線を外さずに、シルフはルーの言葉に相槌を打つ。


「ルーはちょっと離れてて」


「え…?」


 言うが早いか、ルーの身体が風に包まれフワッと後方に飛ばされた。


「カリュー!ギン!」


 その呼びかけに、5メートルはありそうな紅い鱗の火竜と2メートル程の銀狼が、シルフの頭上と横に姿を現す。


 魔力の関係か召喚主の関係か、ファーラスでの姿より半分ほどの小さな身体となっていた。


「アイツ倒すの、ちょっと手伝って」


「なんでオレ様が、お前の指図なんて受けなきゃなんねーんだっ!」


 ギンが噛みつかんばかりの勢いで、シルフに吠えかかった。


「まーまー、今は私がサトコなんだから、しょーがないじゃん」


 シルフは大口を開けて威嚇してくるギンの頭を、ポンポンと気軽に叩く。


「ほらほら、カリューを見習ってさー」


「我とて納得している訳ではない。図に乗るなよ、小娘っ!」


 口の端から炎をボボボと漏れ出しながら、カリューは鋭い眼光でシルフを見下ろした。


「おー怖っ!ハイハイ分かりましたー」


 シルフはわざとらしく身震いしながら、再びミサに視線を戻す。


「とにかくサトコを護るために、アイツ何とかするよー」


「チッ、しゃーねーなっ!」

「了解した」


 カリューとギンも仕方なく頷く。


「これは…さすがに手が出せませんっっ」


 少し離れた後方で、ルーは呆然と呟いた。


   ~~~


「消えろっっ」


 ミサは階段上から跳躍すると、シルフ目掛けて黒鎌を振り下ろした。


 シルフたちは三者三様に散開する。


 すると誰もいなくなった地面に、ミサの攻撃によってスパンと数メートルに渡って亀裂が入った。


 直ぐさまミサは、上空に逃げたシルフをキッと睨み上げる。それからその後を追いかけるように、瞬時に跳び上がった。


「来るなっ!」


 シルフは両手をミサに向けて突き出すと、巨大な風の球体を創り出し撃ち放った。


 まともに正面から受けたミサは、キリ揉みしながら吹き飛ばされた。しかし空中で体育座りのように身体を丸めると、後方宙返りを繰り返し地面に着地する。


 間髪入れず、カリューとギンが炎と氷のブレスを噴いた。


「おっと!」


 ミサは跳び上がってブレスを避ける。


 そこを狙いすましたかのように、カリューは身を捻るように尻尾をミサに打ちつけた。


 ミサは咄嗟に黒鎌の柄で尻尾を受け止めるが、勢い殺せず吹き飛ばされる。そのまま駅前ロータリー横に建っているビルに、外壁を突き破り突っ込んだ。


 透かさずシルフたちは、三者一斉にブレスと風の魔法を撃ち込む。


 その威力に、ビルがガラガラと崩れ落ちた。


「ったく、容赦よーしゃないなー」


 その瞬間、全く別の方向から無邪気な少女の声が聞こえてきた。


 シルフは弾かれたかのように、声のした方向に顔を向ける。


「あらー、全然平気そーだねー」


 シルフはウンザリしたように呟いた。


 そこにはシャドーパンサーの背に腰掛けたミサが、黒鎌を肩に担いで「クスクス」と笑っている姿があった。

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