幻獣大決戦!

第52話

 駅まで送ってくれた新島恵太と別れて、真中聡子とルーは改札への階段を二人で上がっていた。


 その瞬間、ピシッと黒い光が弾け、辺りの景色から色が失われる。


「え!?」

「隔離結界ですっ」


 ルーと真中聡子は、階段の途中で思わず足を止めて立ち止まった。


「新島先輩から手を引いてくれないかなー?」


 そのとき不意に、階段の上から声をかけられた。


 二人はまるで揃えたように、同時に声のした方に顔を向ける。


 そこには、黒いマイクロビキにオペラグローブ、そしてロングブーツ姿の少女が立っていた。


 ピンクのゆるふわショートボブをかき上げながら、紅い瞳でこちらを見下ろしてくる。


「春香の邪魔なんだよねー」


「なんで私たちが、ハルカさんの邪魔になるんですか?」


 ルーは辺りを警戒しながら、ミサに向けて鋭い視線を突き刺した。


「それはだって、新島先輩と近過ぎるからだよ」


「それで私たちをケータお兄ちゃんから遠ざけて、アナタはどーしたいんですか?」


「あの二人が結ばれる、ココとは違う楽園に連れていってあげるの!」


「だったらそうすれば?なんでわざわざ私たちに手を回すの?」


 業を煮やした真中聡子が、二人の会話に無理矢理割り込んだ。


「え!?」


 ミサは面食らって唖然とする。


「そーですね。兄妹であるお二人を解き放ってあげたいと言う意味でしょうけど、だったらサトコさんや春日翔さんを狙う意味が分かりません。お二人の楽園に…邪魔者が増えてしまいますよ?」


 そう言ってルーは、口元に手を当て「ニシシ」と意地悪そうに笑った。


「ち…違うっ!お前たちの行き先は地獄だっ」


「それをアナタが、どうやって選ぶのよ!」


 真中聡子はミサに向かって、ビシッと指を差して声を張り上げた。


「うるさいっ、うるさいっっ」


 ミサは感情的に喚くと、右手を真っ直ぐ頭上に突き上げた。その瞬間、ミサの右手に闇鎌がパッと出現する。


 ルーも咄嗟にツインセイバーを呼び出した。


「とにかくお前たちは地獄行きだっ!瓦礫と一緒に潰れちゃえっっ」


 ミサがクルクルと鎌をバトンのように回した途端、階段がバラバラと細切れに裁断された。


「え!?」


 階段の瓦礫と共に、真中聡子とルーの身体が重力落下を開始する。


 ミサ自身と魔物の警戒に意識を割いていたため、さすがのルーもこれは予想外の展開であった。


   ~~~


 突然の浮遊感に襲われて、真中聡子は一瞬パニックに陥った。


『サトコっ!』


 しかしその瞬間、脳裏に4枚の羽の生えた小さな光の影が現れたかと思うと、右手を必死に伸ばしてくる。


 真中聡子は無意識に、その手を取るように右手を伸ばした。


「シルフっっ」


 次の瞬間、真中聡子を中心に螺旋の風が巻き起こると、ルーと真中聡子の身体を包み込んでフワリと浮き上がらせる。


「間に合って良かったよー」


 自分の手を握ってくる真中聡子の姿を見て、ルーは目を丸くして驚いた。


「え…まさか、シルフですか!?」


 真中聡子の背中には光輝く4枚の透明な羽が生えており、眼鏡の奥の瞳の色が水色に変わっていた。


「うん、そー。とりあえず下に降りるよ」


 シルフはルーを連れてフワッと移動すると、瓦礫を避けて地面に着地した。


「ホントうざいなー。ちっとも思い通りにいかない」


 ミサは溜め息まじりに、ひとり愚痴を零した。

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