第50話

「それじゃ、開けるよ」


 新島春香が兄の部屋のドアノブに手をかけると、真中聡子とルーはゆっくりと頷いた。


 カチャリという音と共に視界が開ける。


「ここがケータお兄ちゃんの部屋…」


 新島春香を先頭に室内に入ると、ルーは感嘆の吐息を漏らした。


 正面の壁には窓があり、その左側にはパイプベッドが置かれている。


 右側の壁には勉強机と本棚が二台並んでおり、本棚にはゲームやマンガ、ラノベ本がギッシリと詰まっていた。


「想像してた『男子の部屋』より、ずっと綺麗」


「私が『手入れ』してるからね」


 真中聡子の感想に、新島春香は「エヘン」と胸を張った。


「それで何でバレないの?」


「恵太はね、には気を付けるの」


 新島春香は特大サイズのビーズクッションの横に放置してあった携帯ゲーム機を、勉強机の上に置き直した。


「それでも油断して荒れてくると確かに手を出しにくくなるから、そういう時はお母さんが気付くように扉を開けっ放しにしとくの」


 そう言って新島春香は「クスッ」と笑う。


「恵太は少し怒られちゃうけど、お母さんが片付けてくれるから…そしたらまた私の出番」


「アンタね…」

「ハルカさん、ちょっと怖いです」


「何でよ、出来た『妹』でしょ?」


 真中聡子とルーはお互い顔を見合わせると、諦めたように苦笑いした。


   ~~~


 問題の衣装ケースは、入り口の左側、廊下側の壁にあるクローゼットの中にあった。


 新島春香、真中聡子、ルーの3人娘は、正座で座り込みゴクリと息を飲む。


 数分後…


 ルーと真中聡子は正座の姿勢のまま、食い入るように「機密文書」に目を通していた。


 ロリっ娘ツインテールは家庭教師の教え子設定、


 同級生の委員長モノに至っては、純愛モノと調教モノの2冊ある。


 何だろうか、この敗北感は…新島春香はひとり、ビーズクッションの上で丸くなって不貞腐れていた。


 しかしそのとき、新島春香の脳裏に雷鳴のような閃きが走った。


 新島恵太の勉強机に、A4サイズのカゴがピッタリと収まった引き出しがある。今まで気にしたコトも無かったけど、もしかしてっ!


 新島春香はガバッと飛び起きると、勢いよく引き出しを開けた。それから恐る恐るカゴを取り出す。


 するとカゴの下から、1冊の本が現れた。


 表紙には「兄妹」の文言が入っている。


 新島春香は急いで本を取り出すと、ページをペラペラとめくり内容を走り読みした。


 大学進学を機に家を出て一人暮らしをする主人公のもとに、半ば強引に押しかけてきた妹とのイチャラブモノだ。


「あっ…た」


 新島春香は、その本を胸元にギュッと抱きしめる。


「あったーーっ!」


 そしてそのままビーズクッションの上に、バフンと背中から倒れ込んだ。


 そのあまりの声の大きさに、真中聡子とルーは身体をビクンと震わせて何事かと振り返った。


   ~~~


「ただいまー」


 新島咲子が玄関に入ったとき、2階からドタドタと音がして、3人揃って階段を降りてくる。


「おかえりー、思ったより早かったね」


 新島春香が少し焦ったような声を出した。


「恵太が手伝ってくれたからね」


「買いすぎだよ、母さん」


 新島恵太が疲れた顔で、両手に提げてた大きな荷物を玄関にドンと置く。


「皆んな若いんだから、コレくらいペロリよ」


 そう言って新島咲子は、口元に手を添えて楽しそうに「ウフフ」と笑った。

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