第48話

「恵太だって男子なんだから、そーいうことも勿論あるわよ。幻滅したなら帰っていいよ?」


「幻滅なんてしてないっっ!」


 新島春香に「シッシ」と右手でジェスチャーされ、真中聡子はバンと机を叩いて反論した。


「…だけど、知るのも怖い気がする」


「大丈夫です、前情報はありますから」


 ルーが口元に手を当て、「ニシシ」と笑う。


「前情報…?」


「そうです、眼鏡巨乳の委員長モノに、ツインテールのロリッ娘モノ…私たちは限りなく当確のハズなんです」


「なんか前にもそんなコト言ってたわね、一体何を根拠に…」


 新島春香がくだらなそうに呟いた。


「ファーラスで春日翔さんから得た情報ですよ。あの時のケータお兄ちゃんの態度から察するに、かなり信憑性が高いと思います」


「う……ファーラス…」


 新島春香は言葉に詰まる。


「ハルカさんに見つかると困るから、隠し場所のことで春日翔さんに相談したみたいですよ」


「何で恵太が、私に見つかるなんて思うのよ?」


 ルーの言葉を聞いて、新島春香の目が丸くなる。


「前にも言いましたけど、ケータお兄ちゃんがハルカさんのの事を知ってるからです」


「むー…」


「ホットパンツ姿でベッドの下に潜り込んで、お尻を振ってる姿も見られてるんじゃないですか?」


 ルーは壁に掛けてある、新島春香の薄桃色の部屋着を指差しながら「ニシシ」と笑った。


「振ってない!お尻なんて振ってないっっ」


「潜り込んでるのは、否定しないんですね」


「ぐ……」


 ルーにジト目で見つめられ、新島春香は口元を押さえて赤面する。


「ちょっと待ってっっ」


 そのとき真中聡子が会話に割り込んだ。


「話が全然見えないんだけどっ!そもそも『ファーラス』って何!?」


「…え!?」


 真中聡子の言葉に、ルーと新島春香はキョトンと顔を見合わせる。それから「あーっ!!」と声を張り上げた。


   ~~~


「今まで必死に誤魔化してきたのに、まさかこんなタイミングで…」


 新島春香がゲンナリしたように溜め息をついた。


「面倒事を先延ばしにした私の責任です。もー潮時だったってコトですね」


 ルーも自嘲気味に微笑む。


「ちょっと、分かるように言いなさいよっ」


 真中聡子は、二人の様子にやや苛立ちを覚えた。


「分かりました」


 ルーはゆっくり頷くと、真中聡子の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「これから私はを話しますが、それを信じるかどうかはサトコさんに任せます」


 ルーの普段にない真剣な表情に、真中聡子はゴクリと息を飲んだ。


   ~~~


「それじゃ、図書館や校舎裏の怪物は、全部本当の事だったの?」


「そうです」


 ルーが力強く頷くのを見て、真中聡子は「ふー」と大きく息を吐いた。


「その様子だと、春香は信じてるのね?」


「まー…ね、私の場合は、信じざるを得ない事実を突き付けられたからね」


「何それ、ちなみにどんな?」


「黙秘権を主張します」


「ふーん、でもルーは知ってるんだよね?」


「まーそうですね。ですが、私とサトコさんにとっては不利益な情報に成りかねません」


「どーいう意味よ?…でもまあ、了解」


 そう言って真中聡子は、どこかスッキリした表情になった。


「どーにも腑に落ちないことが続いたけど、コレでやっとスッキリしたわ」


「信じてくれるんですか?」


 ルーが驚いたような声を出す。


「信じると言うか、その方が辻褄が合うってだけ」


 真中聡子は肩をすくめながら微笑んだ。


「それに…そこの春香バカが信じてるなら、そーなんでしょ?」


「な…誰がバカよっっ!!」


 唐突に貶された新島春香は、顔を真っ赤にして頬を膨らませた。

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