機密文書

第47話

「これ…は!?」


 新島春香は絶句した。


 適当に突っ込まれていた衣装類をたたみ直し、ケースに仕舞おうとしたその時、視線の先に妙な違和感を感じた。


 衣装ケースの底が浮いている気がする…


 ゴクリと唾を飲み右手を伸ばした瞬間、1階で兄がお風呂からあがった気配がした。


 新島春香は出していた衣装類を即座にケースに仕舞うと、部屋から飛び出しそっと扉を閉める。


 廊下から1階を見下ろすと、ちょうど新島恵太が階段を上がっているところだった。


「恵太、お風呂あがったの?」


「おー、母さんがお前も早く入れってさ」


「分かったー」


 新島春香は何食わぬ顔で、いつも通りの笑顔を見せた。


   ~~~


「今日はご夕飯にお招き頂き、ありがとうございます」


 新島家の玄関で、ルーがペコリと頭を下げた。


「リースさん、いらっしゃい。それと…」


 新島咲子はルーに笑顔で挨拶を返すと、その横に立つ縁なし眼鏡をかけた三つ編みおさげの少女に視線を向けた。


「はじめまして、真中聡子です」


「あらまあ、アナタが真中さん?」


 新島咲子が口元に手を当て、驚いた顔をする。


「え…?」


 新島咲子の口から出た自分の名前に、真中聡子は驚きを隠せなかった。


「お名前は恵太から…ウフフ」


「ちょっと母さん、やめてくれっっ」


 駅まで迎えに行っていた新島恵太が、二人の後方から頬を染めながら声を荒げる。


 新島恵太の反応に気付いた真中聡子は、照れたように顔を伏せた。


「何で聡子までいるのよ!?」


 2階から降りてきた新島春香が、真中聡子の姿を見つけて声を張り上げる。


「私が呼んだんです。皆んな一緒がいいと思って」


 ルーがニッコリと笑った。


「アンタ、そんな勝手に…」


「ちゃんとお母さまに確認を取りましたよ?」


「はい、ちゃんと聞いてますよ」


 新島咲子が「ウフフ」と笑う。


「アンタたち、いつの間に連絡先を…」


 新島春香は頭を押さえてうな垂れた。


   ~~~


「なるほど、確かにそれは怪しいですね…限りなくクロに近いです」


 新島春香の話を聞いて、ルーは口元に手を当て頷いた。


「ちょっと、一体何の話をしてるのよ?」


 新島春香の自室に移動し、小さなテーブルを囲むように3人で顔を突き合わすこの状況に、真中聡子は大いに戸惑った。


「ケータお兄ちゃんの、いわゆる『機密文書』について…です」


 重苦しい空気をまといながら、ルーがゆっくりと言葉を発する。真中聡子は思わず息を飲んだ。


「たかがエロ本に、雰囲気作んなっ!」


 新島春香はルーの脳天にチョップを入れる。その衝撃に、ルーは「アダッ」と呻き声を漏らした。


「え…エロ本…?」


 真中聡子の顔が真っ赤に上気する。


「とはいえコレで、ケータお兄ちゃんの好みの女性が分かるかもしれないんですよっ!」


「そ…それはそーかもだけど…」


「……エロ本」


「聡子煩いっ、初心うぶかっ!!」


 新島春香は真中聡子の脳天にも渾身のチョップを入れた。


タッ」


 真中聡子は頭を押さえて、少し涙目になる。


「恵太だって男子なんだから、そーいうことも勿論あるわよ。幻滅したなら帰っていいよ?」


 新島春香は手の甲を真中聡子に向けると「シッシ」と手首を振って追い払った。

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