第46話
新島春香が急いで校門を通り抜けたとき、突然景色が灰色一色に変貌した。
「嘘でしょ!?」
新島春香は思わず立ち止まり、信じられない光景に動揺する。それから思い出したように、自分自身に結界を張った。
その後スマホを取り出し確認するが、圏外の表示に溜め息をつく。
「私ひとりで、どーしろってのよっ!」
新島春香は地団駄を踏んで、吐き捨てるように悪態をついた。
何処から何が襲ってくるか分からない。新島春香は息を潜めて辺りを警戒していた。
そこでふと気付く。
何処からか聞こえてくる金属音…よく考えたら、この静かな世界ではあり得ないことだった。
次の瞬間、胸元にある指輪が激しく光り始めた。
「え…なに!?」
新島春香は眩しさに目を細めながら、光を放つ指輪を確認する。
3つ目の宝石が赤く輝いていた。
「誰か戦ってる!?」
音がするのは目の前の教員棟の向こう側、教室棟の方からだ。
新島春香は、呼ばれたように走り始めた。
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通路に沿って教員棟を回り込むと、グラウンドに面した教室棟が目に入る。
そして下足室の出入り口前に、黒い獣と黒い衣装を着けたピンクの頭髪の少女の姿が確認出来た。
「ミサっ!?」
新島春香は思わず声を張り上げた。
「ハルカっ!?あなた何でこんな所にっ?」
ミサは新島春香の存在に気付くと、驚いたような顔をした。
「…体操服忘れたから、取りにきた」
新島春香は少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「…ハルカらしいね」
ミサは毒気を抜かれたように微笑むと、アリスと春日翔の方に向き直った。
そのとき初めて、新島春香もアリスと春日翔の存在に気が付いた。
「今日はこれで帰るねー」
言いながら、パッとシャドーパンサーの背中に飛び乗った。
「どういう事ですか…?」
アリスが困惑した表情になった。
「別にー、気が変わっただけ」
「逃すと思うのか?」
春日翔は片手剣を構えると、やや身を屈めて特攻の体勢に入る。
「強がっちゃってー、せっかく拾った生命は大事にした方がいいよー」
それだけ言い残して、ミサはシャドーパンサーと共に影の中に沈んでいった。
~~~
「先輩、先輩っ」
身体を揺すられる感覚に、日野美咲と佐久間玲はゆっくりと目を開いた。
目の前にいたのは、艶のある黒髪を肩まで伸ばした整った顔立ちの少女。
「新島……春香…?」
佐久間玲がボソッと呟く。それからゆっくりと視線を巡らす。
日野美咲と二人、下足室前の壁にもたれ掛かるように座り込んでいた。
「気が付いたか?」
不意に声をかけられ、佐久間玲は顔を向けた。そこには春日翔とアリスの姿があった。
ああ、そうか…
佐久間玲は思い出した。
自分たちはフラれたのだと…
「アナタも残念ね、新島春香さん」
日野美咲が新島春香を見つめながら、哀しそうな声を出した。
「何の話…てか、どーして私の名前を?」
「いつも春日くんと一緒にいるんだもん、モチロン調べてあるわよ」
日野美咲はニッコリ笑う。
調べて何をする気だったのだろーか…?新島春香の背中にブルッと悪寒が走った。
「それで、何が残念なんですか?」
「あの二人は婚約者だったのよ!残念ね、新島春香!」
佐久間玲がスックと立ち上がり、屈んでいた新島春香を見下ろした。
「大丈夫、私たち皆んな、立場は一緒だから」
日野美咲は同情したような表情で、新島春香の肩にそっと右手を乗せた。
「お…お前ら、春香ちゃんに変なことを吹き込むなっっ!」
春日翔が焦ったように声を荒げた。
「あら、ショウ。事実なんですから、これは仕方がありません」
アリスは春日翔の左腕に抱きつくと、とても晴れやかな表情でニッコリと笑う。
「待て待て、巻き込むなっ!」
新島春香は咄嗟に立ち上がり、数歩後退った。
「この輪に私を巻き込むなーーっ!」
新島春香の叫び声は、天高く吸い込まれていった。
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