第45話

「ショウ…あなた一体どうやって…」


 アリスが信じられないモノを見るような目で、春日翔を見上げている。


「分からない…何故だか出来る気がした」


 春日翔は答えながら、翼を斬り裂いたハーピーの首を斬り飛ばした。


 ハーピーは首の切断面から大量の影を噴き出し、そのまま背後に倒れ込んだ。


 その時もう1体のハーピーが再び飛び上がり、春日翔とアリスを目掛けて硬質な羽を撃ち出した。


 春日翔はアリスに劣らない剣技で全ての羽を斬り払うと、瞬時に空中を駆け上がっていく。そしてそのままの勢いで、ハーピーの胸を刺し貫いた。


 春日翔は剣を引き抜くと同時にハーピーを蹴り飛ばし、後方宙返りでアリスのそばに着地する。


「虚空跳躍…」


 アリスの独り言のような声に反応して、春日翔はアリスの方に顔を向けた。


 直後に思わずギョッとする。


 アリスの目から大粒の涙がポロポロと零れて、頬を伝っていたのだ。


「例えショウの記憶が無くなっても…私たちの過ごした時間まで、消え失せてしまった訳ではなかったのですね」


 アリスは泣きながら笑っていた。


 アリスの言葉の意味は分からなかったが、不思議と春日翔の腹にストンと落ちた。


 尻もちをついたままのアリスの頭の上に、春日翔はポンと左手を乗せて口を開く。


「言ってる意味が分かんねーよ」


 そのときアリスの瞳に映ったのは、春日翔のとても優しい笑顔だった。


   ~~~


「感動的なシーンのトコ、邪魔して申し訳ないんだけど…」


 不意にミサの声が辺りに響いた。


 アリスと春日翔に再び緊張が走る。


「残念ながら、このまま終わり…って訳には、いかないんだよねー」


 ミサはシャドーパンサーの背中からフワリと降りると、長い黒鎌を肩に担いだ。


「ショウ、ファルシオンを」


 アリスは直ぐさま立ち上がると、ミサから目線を離さずに右手を春日翔に差し出した。


「ああ」


 春日翔は持っていた神器をアリスの右手に返す。


「何のためにこんな機能があるのか、分からなかったのですが…」


 アリスの口元がフッと緩む。


「今やっと分かりました」


 一体どこまで彼女ベルの想定どおりなのでしょうか…


 アリスは右手を前に突き出し神器を横に向けた。


「スプリットフォーム!」


 アリスの掛け声とともに、ファルシオンの刀身の中軸に光の筋が走る。そしてその光の筋が引き伸びるように、刀身が2つに分割した。


 続いて分割した刀身から光が伸びて、柄の部分が再現される。アリスはそのもう1本の柄を左手で握りしめた。


 一瞬で、片刃の片手剣が2本誕生した。


 それからアリスは、右手にあった片手剣を春日翔の方に差し出す。


「コッチが本体なんだろ?」


 春日翔は、差し出された片手剣とアリスを交互に見つめた。


「ですから、ショウが持つべきです」


「…どっから来るんだよ、その自信は」


「自信ではありません、事実です」


 以前にも聞いたアリスの言葉に、春日翔は思わず口元が緩んだ。


「…ったく、どうなっても知らねーからな」


 春日翔は神器を奪うように受け取った。


「へー」


 ミサが興味深そうに目を細めた。


「ちょっとは愉しめそーかな」


 言いながらペロリと唇を舐める。


「ミサっ!?」


 そのとき思いもよらない方向から声をかけられ、ミサは驚いたように振り返った。


 そこには新島春香の姿があった。

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