聖騎士覚醒

第41話

 日曜日、


 新島一家は日帰りで、他県にある温泉の出る入浴施設にやって来ていた。


 当然ながら、男女別行動である。


 女湯の方は何故だか湯気が充満しており、身体の一部をうまい具合に遮っていた。


 母親の新島咲子がサウナに入ったので、新島春香も最初は付き合った。しかしとても長居の出来る環境ではなく、逃亡を余儀なくされた。


 ある程度温泉は堪能したので、ここらでお風呂から出ることにする。


 新島春香が施設貸出の浴衣に着替えて女湯から出ると、ロビーのソファーでマンガを読んでいる新島恵太の姿があった。同じく浴衣を着用している。


「恵太、早いね」


 声をかけながら、新島恵太のすぐ真横にストンと腰を下ろした。


「ああ、父さんがサウナに入っちゃったからな」


「コッチも一緒。お母さんもサウナ」


 だけどそのおかげで、恵太との時間が出来た。新島春香は嬉しそうに微笑んだ。


「何読んでるの?」


 新島春香が新島恵太の右腕に、自分の胸を押し付けるように覗き込む。


「お、おいっ」


 新島恵太が焦ったような声を出したが、新島春香は知らない振りをした。


「何コレ、ウチにあるのと一緒じゃないっ」


「新しいのを読んだって、全部読める訳じゃないからな。それに面白いモノは何度読んでも面白い」


 新島恵太は自論を展開しながら、だんだんと頬を赤らめる。


「…てかお前、下着は?」


「やだ恵太、なに想像してるのよ?ちゃんと履いてるよー」


「ち、違…上っ!」


「あーこれ?スポーツブラなの」


 そう言いながら、新島春香は浴衣の胸元をピラリと広げた。


「み、見せなくていいからっっ」


「そっちが聞いたクセにー」


 新島春香は「ブー」と頬を膨らます。


 暑いくらいに顔が上気した新島恵太は、横手に置いていた飲み物を「グビリ」と飲んだ。牛乳瓶タイプのミックスジュースだ。


「あ、いーなー、ひと口ちょーだい」


「……ひと口だぞ」


「ありがと」


 新島春香はお礼を言って受け取ると、グイッと一気に飲み込んだ。


「あ、お前!?」


「はー、美味しかった」


「お前のひと口は、半分以上かよ…?」


 返ってきた瓶を受け取りながら、新島恵太は満足そうな笑顔を見せる妹をジロリと睨んだ。


「いーじゃん、減るもんじゃないし」


「飲んだら減るんだよっっ!」


「あ、そっか」


 新島恵太に怒鳴りつけられ、新島春香は楽しそうに笑って納得する。


「あらあら、仲が良いわね」


 女湯から出てきた浴衣姿の新島咲子が、二人の姿を見ながらニッコリ微笑んだ。


   ~~~


 翌朝、月曜日。


「おはよう、春香」


 下足ロッカーから階段に向かう途中で、新島春香は横から声をかけられた。振り向くと、そこには中野茉理の姿があった。


「あれ、茉理?こんなトコで何してるの?」


 中野茉理の現れた場所は、3年生の教室のある廊下である。新島春香は不思議そうな顔をした。


「別に何でもない」


 そう言って中野茉理はニッコリ笑った。


「じゃな、春香」


「あ、うん、また後で」


 新島春香の肩をポンと叩いて、新島恵太が階段を上がっていった。


「邪魔しちゃったかな?」


 新島恵太の後ろ姿を見送りながら、中野茉理は意地悪そうに微笑んだ。


「もー、また?茉理、最近ちょっと変よ」


「親友の恋を応援するのが変なの?」


「だから、その前提が変なんだって!」


「はいはい、そーいうコトにしておきます」


 中野茉理は「アハハ」と声に出して笑うと、階段を上がり始める。


「ちょっと、ホントに分かってるの?」


 新島春香は耳まで真っ赤にしながら、中野茉理を追いかけた。


 こんなに分かり易いのに、何で今まで気付かなかったのだろーか…


 中野茉理は「フフッ」とこみ上げた笑いを抑えることが出来なかった。

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