第39話

「ショーーーォオ!」


 突然、凛と澄んだ大きな声が学校中に響き渡った。


「アイツっ!?」

「この声、アリスさんです!」


 2年4組の教室にいた春日翔とルーが、同時に反応する。それから二人して廊下に飛び出すと、声がしたであろう裏庭の方を見下ろした。


 一体何事かと野次馬根性丸出しの多数の生徒も、廊下に集まりざわついている。


「あ、ショウ!こっち、こっちです!」


 水色ワンピースを着た銀髪ボブヘアーの少女が、春日翔の姿を見つけ両手を大きく振っている。


「春日の知り合いか…?」

「わー、綺麗な女性ひとー」


 生徒の囁くような声が、次々と波及していく。


「ホント、勘弁してくれ…」


 春日翔は廊下の窓枠に、ガックリとうな垂れた。


   ~~~


 春日翔たちがアリスの元に集まったとき、真中聡子と山田隆史は、校舎の壁にもたれるように眠っていた。


 ルーと新島春香は、瞬時に事態を把握する。きっとまた魔物が現れたのだ。


「ま…真中さん!?」


 思わず「聡子」呼びも忘れるほどに焦った新島恵太が、真中聡子の元に駆け寄った。


「何があった?」


 春日翔がアリスをギロリと睨む。


 アリスは一瞬考え込むと、チラリとルーの方に視線を向けた。ルーはゆっくりと首を横に振る。それを受けてアリスは一度目を閉じると、再び春日翔の方に視線を戻した。


「分かりません。私が通りかかったときには、お二人はもう…」


「通りかかったって、お前な…ここは学校の敷地内だぞ?」


「あ…!?」


 アリスはハッとしたような顔になった。


 そんなアリスの態度に、春日翔は大きな溜め息をついた。


「…で、お前は何しに来たんだ?」


「それは勿論ショウを護るためです」


 アリスが自信満々で答えた。


「はあ?」


学校ここはショウをつけ狙う不届き者が多過ぎます。私がしっかり見張っておかないとっ!」


「え!?この人、春日さんの彼女!?」


 新島春香が驚いた声を出した。


「ち、違う。春香ちゃん、それは誤解…」

「そんな…違うだなんてっっ」


 慌てて否定する春日翔の言葉を遮るように、アリスが声を張り上げ悲しそうな顔をした。


「え…あ…」


 今にも泣き出しそうなアリスを見て、春日翔がオロオロと狼狽える。


「へー春日さん、いつの間にか、こんな彼女ひといたんだー」


 新島春香はニヤニヤしながら、慌てる春日翔を見つめていた。


 ルーも新鮮な気持ちになる。


 向こうファーラスでは絶対起こり得なかった光景に、感動すら覚えた。


(お前らちょっとはコッチの心配しろよ…)


 新島恵太はひとり、大きな溜め息をついた。


   ~~~


「あれ、私?」


 ユサユサと揺れる振動に、真中聡子はハッと目を覚ました。それから自分が誰かに背負われていることに気が付く。


「起きたんなら降りてよ、重いんだからっ!」


 そう言って新島春香は、返事も待たずに真中聡子をストンと降ろす。


「わわっっ」


 急に降ろされた真中聡子はバランスを崩して後ろに倒れそうになるが、背後に控えていたルーに背中を支えられた。


「ハルカさん、今のは乱暴すぎますっ!」


「あんな重量級、いつまでも背中に押しつけられてたら私の自尊心が保たない」


 新島春香が忌々しげに呟いた。


「自分でやるって言ったんですよね?」


「恵太にやらせる訳にはいかないでしょーがっっ」


「ちょ…ちょっと待って」


 新島春香とルーの普段通りの姿に、真中聡子は困惑する。


「図書館の怪物は?山田くんはどうなったの?」


「何のこと?」


 真中聡子の焦った声に、新島春香がキョトンとした顔になった。


「何のことって…」


「それよりビックリしたのは、コッチだよ!」


 困惑する真中聡子に向かって、新島春香がビシッと右手で指差した。


「聡子の帰りが遅いから気になって探しに来たら、あんなトコで寝てるんだもん」


「え…寝てた?私が?」


 真中聡子には、もう何が何だか分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る