第38話

「え…シルフ!?」


「あ、まーまー、そこは今は置いといて」


 アリスの困惑した顔に、シルフは無邪気な笑顔を見せる。


 アリスは自身を落ち着かせるように「ふー」と大きく息を吐いた。


「分かりました。それで、手伝えとは?」


「アレ」


 そう言ってシルフは右手で指差す。その方向に視線を向けて、アリスは三度驚愕することになった。


 そこには片膝をついてうずくまる、赤い体躯の巨鬼の姿があった。一体何があったのか、左手の手首から先が無くなっている。


「レッドオーガ!?」


「私じゃ、やり過ぎちゃうからさー…フォローはするから、アリスがやってくんない?」


「…どういう意味ですか?」


 アリスが困惑の表情を浮かべた。


「あのオーガ、どーやらサトコの友達を触媒に使ってるみたいなんだ。消し飛ばすのは出来そーなんだけど、その人がどーなるのか分かんない」


「アナタ、日本ここで魔法が使えるの!?」


 アリスの驚いた声に、シルフは首を傾げる。それから何かに気付いたように両手を叩いた。


「あーナルホド!精霊わたしたちの魔法は魔力を触媒に自然界の生命力に働きかけるから、魔力のないこの世界でも関係ないんだー」


「そんな違いが…」


 アリスは考え込むように口元に手を当てた。しかし実際は、そんな悠長な場合ではなかった。


「ゴアァァアアーー!」


 レッドオーガが黒い金棒を杖代わりに立ち上がると、天を仰いで咆哮した。


「アリスっ」


 シルフの呼びかけにアリスは頷くと、右手を前に突き出し神器を呼んだ。


「ファルシオン!」


 その声に呼応するように、アリスの右手から一本の光の筋が伸びていく。次の瞬間、アリスの右手には白銀に輝く、幅広い刀身の片手剣が握られていた。


「行きますっ!」


 アリスはスッと体勢を低くすると、レッドオーガに向けて突き進む。


 レッドオーガは突進してくるアリスに狙いを定めると、右手の金棒を振り下ろした。轟音と振動を轟かせて地面に亀裂が入る。


 アリスは寸前で跳躍すると、空中で前回りをしながら金棒の上に着地する。そのまま間髪入れず、金棒の上を駆け上がった。


 その瞬間、レッドオーガの頭髪が炎のように揺らめいた。能力発動の合図だ。


「くっ!」


 アリスは咄嗟に後方に跳んだ。同時にレッドオーガの足元から、螺旋状の炎の柱が立ち昇った。この自動防御オートスキルのせいで、やはり迂闊に近付けない。


「任せてっ!」


 そのときシルフが右腕を下から上に振り上げた。


 呼応するように、レッドオーガの足元から竜巻が発生する。そのまま炎の柱を飲み込み、炎の竜巻へと進化した。


「ガアァァアア!!」


 レッドオーガは自身の火力を上回る火力に晒され、断末魔の絶叫をあげる。


 シルフがパチンと指を鳴らすと、竜巻が天高く伸び上がり炎を連れて消失した。


 ようやく解放されたレッドオーガは、崩れ落ちるように両膝をつく。全身炭化し、プスプスと煙を吹き上げていた。


「今よっ!」

「分かっていますっ!」


 アリスは一気に間合いを詰めると、横一線に片手剣を振り斬った。


 スパンと鮮やかな音がしてそうな勢いで、レッドオーガの頭部が空高く舞い上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る