第36話
真中聡子が裏庭に向かうために校舎の外壁に付いている非常階段を降りていると、下からひとりの女生徒が上がってきた。
二人は軽く会釈を交わすと、お互い譲り合って狭い階段をすれ違う。
「真中先輩…ですよね?」
いきなり名前を呼ばれ、真中聡子は驚いたように振り返った。
するとさっきの女生徒が、階段の踊り場のところから真中聡子を見下ろしていた。
少し茶髪のショートボブにゆるふわパーマをかけた可愛らしい少女だ。
「そう…だけど、アナタは?」
「ただの
「…何か用?」
「用事って程じゃないんですけど、真中先輩がもし誰かに告白とかされたら、断らない方がいいと思いますよ?」
「え!?」
「きっと良くないことが起こるから」
そう言って女生徒は「フフッ」と妖しく微笑む。それから踵を返して階段の向こうに姿を消した。
「ちょっと!」
真中聡子は階段を駆け上がって追いかけたが、その姿は既に何処にも見当たらなかった。
~~~
「こんな所まで呼び出してゴメンな」
真中聡子が校舎裏にやってきたとき、山田隆史は既にそこで待っていた。
「それはいいのだけど、何の用事?」
まだお昼休みも始まったばかりとあって、こんな場所にいる生徒は自分たちしかいない。真中聡子は、少し緊張気味に応えた。
「あー、うん…」
山田隆史は頬を赤らめると、照れくさそうに頭を掻いた。
「あ、そーだ!真中さん、お昼まだだよね?良かったら一緒に食べない?」
「ごめんなさい。私、お弁当持ってるから」
「そ…そーだよね」
真中聡子の返事に、山田隆史はちょっと残念そうに笑った。
「ひょっとして、それが用事?」
「あ…ち、違うっ」
山田隆史は慌てて否定した。それから「すーはー」と大きく深呼吸する。
「あ、あのっ!」
山田隆史は声を張り上げた。このままの勢いで駆け抜ける覚悟を決める。
「1年のときから好きでしたっ!良かったら付き合ってくださいっっ」
一気に伝え終わると、背筋を反り返して腰だけ直角に折り曲げた。
真中聡子は衝撃の中にいた。
生まれて初めて告白されてしまった…
確かに感慨深いモノはある。
しかし残念ながら…
幸せな気分には、なれなかった。
真中聡子はゆっくりと頭を下げた。
「ごめんなさい、山田くんとは付き合えません」
返事を聞いて山田隆史は体勢を元に戻した。目の前には、深々と頭を下げる真中聡子の姿があった。
「…俺のこと、嫌いか?」
「嫌いって訳では…」
山田隆史のボソッとした呟きに、真中聡子は下を向いたまま答えた。
「だったらさ俺頑張るから、とりあえず付き合って俺にチャンス貰えないかな?」
「それでは私が困るのっ」
真中聡子は、思わず顔を振り上げた。
「もしかして…他に好きなヤツがいるのか?」
「……」
「新島…か?」
真中聡子は答えない。しかしその真っ直ぐな瞳に、山田隆史は確信を得た。
「そうか…」
山田隆史は悔しそうに微笑んだ。
「くそっくそっっ!」
それから両手でバリボリと頭を掻きむしる。
「くそっくそっくそっくそっっ!!」
山田隆史はまるで仰け反るように上半身を反り返すと、苦しそうに「ガアアア」と叫び声を上げた。
その途端、彼の足下に魔法陣のようなモノが描き出され、そこから真っ黒な影が勢いよく噴き出した。
そのまま山田隆史の身体を覆い尽くしていく。
「え、な…何?」
真中聡子は絶句する。何が起きているのか、全く理解出来ない。
目の前に、3メートル以上ありそうな真っ黒な球体が出来上がった。それからパリンと砕け散る。
中から真っ赤な体躯の巨人が、巨大な黒い金棒を携えて現れた。
メラメラと燃え上がるような頭髪の隙間から黒いツノが2本、天に向かって生えている。鋭く吊り上がった白い目に、大きく裂けた口の下アゴからは2本の牙が上に向かって突き出ていた。
真中聡子には知る由もないが、その姿は紛れもなくレッドオーガである。
いつのまにか、周囲の景色から色が抜け落ちていた。
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