第35話

 新島恵太がガラガラと扉を開けて教室に入ると、真中聡子がスポーツ刈りの男子と喋っていた。


 山田隆史だ。


 新島恵太は一瞬モヤッとした気分になるが、自分の席に向かって歩きだす。


 山田隆史は新島恵太の姿に気がつくと、「待ってるから」と言い残し去っていった。


「あ、ちょっと…」


 真中聡子は慌てて山田隆史を呼び止めるが、残念ながら成功しなかった。


「聡子、おはよう」


「あ、恵太くん、おはよう」


 真中聡子は新島恵太の挨拶に驚いたように振り返ると、すぐに笑顔で応える。


「何かあった?」


「あ、えーと…」


 真中聡子はスッと目線を逸らすと、少し困った表情になった。


 すぐに問いただしたい衝動を抑えつけながら、新島恵太は自分の鞄を机の上に置いた。それから鞄の中身を机の中に移していく。


「なんかね…伝えたいコトがあるから、昼休みに裏庭に来て欲しいって言われたの」


「え!?」


 新島恵太は焦ったように、真中聡子の方に振り向いた。その瞬間、真中聡子の真っ直ぐな視線とバチッと交錯する。


「…どうしたらいいかな?」


「どうしたらって…行くしかないよ」


 新島恵太は山田隆史の行動に干渉しないと宣言した手前、何も言うことが出来ない。


 あの時の会話が聞こえていた真中聡子にも、新島恵太の思考が手に取るように分かる。そして「恵太くんらしいな…」と少し寂しそうに笑った。


「でもなっ!!」


 そのとき、新島恵太は顔を赤らめながら更に言葉を続けた。


「聡子が他の男子に呼び出されるのは、やっぱり面白くないっっ」


「え…!?」


 真中聡子の顔も一瞬で上気する。


「トイレ行ってくるっ!」


 新島恵太はガタッと立ち上がると、それだけ言い残して駆けていった。


   ~~~


「あれ、聡子お弁当食べないの?」


 昼休みに席を立って移動を始めた真中聡子に、新島春香が意外そうに声をかけた。


「ちょっと用事があって」


 新島春香に応えたあと、真中聡子は新島恵太の方に視線を向けた。


「それじゃ恵太くん、私ちょっと行ってくる」


 嬉しそうな笑顔でそう告げると、真中聡子は教室を出ていった。


「アイツ、何であんな笑顔なの?」 

「分かりません」


 新島春香とルーがヒソヒソと話し合いながら、真中聡子を見送った。


「おい、恵太」


 春日翔が不意に新島恵太に声をかけた。


「なんだよ?」


「もしかして、山田絡みか?」


「お前…ちょっと怖いぞ」


 新島恵太は苦笑いをする。


「それにしても…何だ、あの笑顔は?真中さんはお前狙いだと睨んでたんだがな」


「あのなー…」


「お前、これでいいのかよ?」


「ど…どーいう意味だよ?」


 春日翔の突然の言葉に、新島恵太は焦ったような顔をした。


「真中さんがオッケーしても良いのかって聞いてんだよ」


「いいに決まってんでしょっ!」


 新島春香がバンと机を叩いて代わりに答えた。


「春香ちゃんには聞いてないんだけど?」


「恵太も同じ答えだよねー?」


「あ、えーと…」


 新島春香にジロリと睨まれ、新島恵太はコメカミをポリポリと掻きながら視線を逸らした。


「私はオッケーして欲しくないです。皆んな一緒でワイワイしたいです」


 ルーが少し寂しそうに俯いた。


「お前ら、何か楽しそうだな」


 春日翔が呆れたように溜め息をついた。

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