第34話
「ちょっと!何で私たち、駅前なんかにいてるのよっ!」
「何で…て、聡子とルーを送ってきたからだろ?」
駅前のロータリーで突然喚いた新島春香に、新島恵太は不思議そうな顔で冷静に応えた。
「だから何で、聡子とルーを送って来なきゃいけないのよっ!」
「えー、いつも送ってくれたじゃないですか」
ルーが少し拗ねたような声を出した。
「それは、勉強会があったから…そうよっ!」
新島春香が閃いたようにパンと両手を打った。
「もう勉強会も終わったんだから、校門でお別れでいいじゃない」
「元々そのつもりだったのに、アナタが勝手についてきたんでしょ?」
真中聡子が「はー」と溜め息まじりに呟いた。
「私は恵太と一緒にいただけよ、勘違いするな!」
「まーまー、春香…」
新島恵太が少し困ったような表情で苦笑いした。
「恵太も恵太よっ!勉強会も終わったのに何で?」
「それは……聡子には結構世話になったし…」
新島恵太の声は、最後の方がゴニョゴニョとだんだん萎んでいった。
「あーもうっ、何なのよーっ!」
新島春香は天を仰いで爆発した。
「分かった分かった、帰りに商店街で何か買ってやるから」
「え!?」
新島恵太が妹の機嫌を直すために出した提案に、3人の少女が同時に反応した。
「あ、あんまり高いのはナシな!予算は五百円まででっっ」
3人の反応の意図を見誤った新島恵太は、慌てて条件を付け加える。しかし3人は、そんなコト微塵も聞いていなかった。それぞれ口元に手を当てながら、何かを考え込んでいる。
何故だか分からないが、新島恵太の背中を冷や汗が伝った。
最初に顔を上げたのは、新島春香であった。
「だったら何か良いのが見つかるまで、毎日商店街で探してもいい?」
「あ、ああ、そりゃ勿論…」
新島恵太は少し仰け反りながら頷く。
「恵太くん、私買いたい物があって…ついて行っても良いかな?」
「ケータお兄ちゃん、そーいえば私も買い物頼まれてたんでしたっ!」
真中聡子とルーが、慌てたように新島恵太に詰め寄った。
「え!?ここまで来て、皆んなで戻るのか?」
新島恵太は、さすがに困惑した声を出した。
「だったらそこのショッピングモールでいいじゃない。商店街は後でで大丈夫だから」
新島春香が駅ビルを指差しながらニヤリと笑う。
「それもそーだな」
新島恵太は名案だとばかりに頷いた。
真中聡子とルーの厳しい視線を浴びながら、新島春香は「フフン」と胸を反り返した。
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春日翔は本屋をグルリと巡っていたが、目ぼしい物が見つからずそのまま店を出た。
しかしそのとき、自動ドアですれ違った女性にいきなり腕を掴まれると、強引に店内に連れ戻された。
春日翔は驚いたように振り向くと、そこには水色ワンピースの後ろ姿があった。
「またお前か…アリス」
呼ばれたアリスは、銀髪のボブヘアーをフワリと揺らしながら笑顔で振り返った。
「ここのコーヒーショップはメニューが多すぎて、どれを選べばいいのか分からないのです」
店内のカウンターを指差しながら、アリスが困った顔をした。
ここの本屋は1階がコーヒーショップと共同スペースになっていて、毎日利用客も多い。そしてコーヒーショップの豊富なメニュー表には、まるで呪文のような名前が並んでいた。
「何でも好きなの頼めよ」
春日翔が呆れたように溜め息をついた。
「だから、その好きなのが分からないのです」
そう言ってアリスは、春日翔の腕をグイッと強く引っ張った。
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